労働安全衛生法改正 2026 SDS義務化はどう変わる？全ポイント解説

2025年12月5日

この記事のもくじ

2026年労働安全衛生法改正の全体像と目的

2026年に予定されている労働安全衛生法の改正は、化学物質管理の抜本的な見直しが中心となります。とくに注目されているのが、SDS（安全データシート）提供義務の大幅拡大と、ラベル表示の強化です。これらは、日本国内で扱われる化学物質の情報伝達をより精確にし、事業場での健康被害を防止するために不可欠とされています。今回の法改正は、企業規模や業種に関係なく影響が及ぶ点が特徴であり、化学物質をわずかに扱う事業者にも必ず関係します。

改正が必要とされる背景とは？

近年、国内外で化学物質に起因する労働災害が増加しています。また、国際的にはGHS分類のアップデートが進み、日本はその最新動向に追いついていない状況がありました。これを放置すると、企業間で扱う化学物質の情報が不統一になり、輸出入産業にも大きな齟齬が生じます。そこで2026年改正では、国際基準との整合性を高めるとともに、国内の安全衛生体制をより強固にする目的があります。企業の対応が遅れると、行政処分や指導の対象になり得るため、早期準備が必須です。

SDS義務化強化のねらいは「情報の質」向上

今回の改正の中心は、SDSの提供義務対象物質が大きく増える点です。これまで対象外だった物質にもSDSが必要となり、情報提供の幅が一気に広がります。また、SDSの更新義務が強化される見込みで、古い情報のまま放置することが許されなくなります。特に中小企業は管理体制が追いつかず、コンプライアンス違反に発展しやすい傾向があるため注意が必要です。法律の目的は、現場で働く労働者が「正確な化学物質情報を受け取れる環境を整える」ことにあります。

ラベル表示の改正が企業へ与える影響

ラベル表示の義務強化は、企業の実務負担を確実に増やします。化学物質を小分けにする場面や、自社ブランドで再包装する場面でも、適切なGHSラベルを貼る必要があります。これまで曖昧だった管理ルールが明確化されるため、対応の遅れは法令違反に直結します。特に製造業、印刷業、金属加工業など、日常的に溶剤や薬品を使う企業は影響が大きいでしょう。

2026年改正の本当の狙いは「リスクアセスメントの質向上」

法改正は単に手続きの強化ではなく、企業のリスクアセスメントの質を高める目的があります。対象物質が増えることで、企業は実際に扱う化学物質の危険性を再評価しなければなりません。これにより、管理手法の見直しや作業工程の改善が促され、労働災害の発生率低減が期待されています。国の行政方針としては、2026年以降も追加改正を行う可能性が示されています。 DX化による化学物質管理の効率化も求められており、企業は長期的に管理体制を整える必要があります。

2026年改正が企業全体に与えるインパクト

今回の改正を単なる手続き変更と捉えてはいけません。 SDS、ラベル、リスクアセスメントの3つが連動し、事業場全体の化学物質管理体制に影響を与えます。準備を怠ると、罰則・行政指導・取引停止のリスクが高まるため、早期対応が重要です。とくに取引先からSDS提出を求められるケースが増えるため、コンプライアンス対応は企業価値にも直結します。 2026年改正は、企業の化学物質管理レベルを一段階引き上げる転換点になるといえるでしょう。

SDS義務化の範囲拡大：新たに対象となる化学物質とは？

2026年の労働安全衛生法改正では、SDS（安全データシート）提供義務の対象が大きく見直されます。これまで通知対象物質として指定されていた数百の化学物質に加え、新たな物質群が追加される見込みです。特に、GHS分類に基づく国際基準との整合性を高めるため、危険有害性が新しく評価された物質も対象となります。そのため、これまでSDS作成義務がなかった企業も、改正後は必ず対応が必要となります。

新たに対象となる物質群の特徴とは？

今回の改正では、以下のような特徴を持つ物質が追加される可能性が高いといわれています。

生殖毒性が見直された化学物質
感作性（皮膚・呼吸器）に関する知見が更新された物質
特定ターゲット臓器毒性（STOT）に分類される物質
国際機関の評価により危険性が上昇した物質
ナノ物質や新規材料など、従来評価が未整備だった物質

これらの物質は、製造業や化学工業だけでなく、印刷、金属加工、建設、サービス業など幅広い業種で使用されている可能性があります。そのため「うちは化学メーカーではないから関係ない」と考える企業ほど影響を受けやすい点が注意点です。

SDS義務対象物質は何種類増えるのか？

政府の検討会資料では、SDS対象物質の拡大が段階的に進む可能性が示されています。現在の約700物質前後に対し、改正後は1000物質以上に拡大する可能性も指摘されています。これはGHSの最新改訂（Rev.9〜10）に合わせた分類更新が背景にあり、国際基準に準拠するためには不可避の流れです。対象物質が増えることで、SDSの作成・提供・更新の負担は確実に増加します。

輸入事業者への影響が特に大きい理由

改正の影響は、製造業よりも輸入事業者に強く現れることが予測されます。輸入製品には化学成分が詳細に明記されていないケースが多く、海外メーカーからの情報不足が課題となります。 SDSが提供されないまま製品を国内流通させれば、輸入者責任として法令違反になるリスクがあります。そのため、海外サプライヤーとの事前調整が極めて重要です。

中小企業の負担が大きくなる理由

SDS対象物質の増加は、大企業だけでなく中小企業にも大きな負担をもたらします。特に以下の点が実務上の課題となりやすい部分です。

物質ごとのSDS収集・整理に時間がかかる
更新頻度が高まり、管理担当者の負荷が増える
ラベル表示の作り直しが必要になる
取引先からSDS提出を求められる機会が増える

これらの要素は、化学物質管理担当が1人という企業では特に大きな負担になります。準備に遅れるほど、改正施行後に対応が追いつかなくなる恐れがあります。

対象拡大により実務負担はどう変わる？

SDS義務対象の拡大は、「物質管理のすべて」が厳格化されることを意味します。具体的には次の業務が増えることになります。

SDSの受領・管理・共有の仕組み整備
最新情報への更新作業の定期実施
作業者への教育内容の見直し
リスクアセスメント対象範囲の拡大

これに伴い、企業は従来の紙管理からデジタル管理への移行を検討することが求められます。また、取引先企業との間でSDS提供の基準が統一され、コンプライアンス面での評価差が明確になるでしょう。

SDS範囲拡大で企業はどう備えるべきか

まず必要なのは、自社が扱っている全化学物質のリスト化です。これがないと、どの物質が新たにSDS義務対象になるか判断できません。次に、既存のSDSの更新状況をチェックし、改正に合わせて内容を見直す必要があります。さらに、ラベル表示を一括管理する仕組みを整えることで、改正後の混乱を最小限に抑えられます。 2026年改正は、単なる義務化ではなく「化学物質管理を再構築する機会」と捉えるべきです。

ラベル表示の改正ポイントと国際基準（GHS）との整合性

2026年の労働安全衛生法改正では、SDSと並んで「ラベル表示」の義務強化が大きな焦点となります。ラベル表示は、作業現場で最も直接的に危険性を伝える重要な手段であり、誤った情報や不十分な表示は労働災害につながる可能性があります。改正では、国際基準であるGHS（化学品の分類および表示に関する世界調和システム）との整合性がさらに求められ、企業が対応すべき項目は確実に増えることになります。

ラベル表示義務の改正ポイント

改正後のラベル表示では、以下の項目が強化される見込みです。

危険有害性情報の最新化（GHS分類の改訂に応じた変更）
ピクトグラムの追加・削除のルール明確化
注意喚起語（Warning/Danger）の見直し
化学品名および混合物成分の表示義務の強化
ラベルの視認性・耐久性に関する基準明確化

これまで曖昧だった部分が明確化されることにより、ラベルの作成方法や情報更新頻度が実務的に増えることになります。特に化学物質を小分け・再包装する企業では、作業フロー全体の見直しが必須となります。

GHS国際基準との整合性が求められる理由

GHSは国際的に統一された化学品分類・表示制度ですが、各国で採用しているバージョンが異なることがあります。日本はこれまでGHS Rev.4〜Rev.6を段階的に採用してきましたが、2026年改正ではより新しい改訂版との整合性が進むとされています。これにより、海外との取引や製品輸送における化学物質情報の差異が減り、安全性が向上します。

また、GHS分類の変更により、同じ化学物質でも危険区分が変わることがあるため、企業は常に最新情報に基づいたラベルを作成する必要があります。

小分け作業時のラベル表示ルールが厳格化

今回の改正で特に影響が大きいのが、小分け・移し替え作業に関するラベル義務です。従来は簡易ラベルで済まされていたケースが多くありましたが、改正後は以下の点がより厳格に求められます。

GHSピクトグラムを省略せず表示する
注意喚起語の明記
混合物の場合は成分情報の一部を表示
容器サイズ別の表示基準の明確化

これにより、現場で使用している容器をすべて見直し、ラベル貼り付けのルールを統一する必要があります。対応が遅れると、改正後の行政指導の対象になる可能性が高まります。

ラベル改正が影響する業種とは？

ラベル表示の影響は、化学メーカーだけに留まりません。実際には以下の業種で大きな影響が予測されています。

製造業（塗料・溶剤・洗浄剤を使用）
金属加工業（切削油・洗浄剤・防錆剤）
印刷業（インク・現像液）
建設業（接着剤・コーティング剤）
美容業（薬剤を扱うサロン）

これらの業種では日常的に小分け作業を行っているため、ラベル表示ルールの変更は作業手順書の全面見直しにつながります。

実務負担を増やす最大の要因は「ラベル更新頻度」

SDSの更新に合わせてラベルも更新する必要があるため、改正後は企業の実務負担が継続的に発生します。また、GHS分類が変更されると、ピクトグラムの数が増えるケースもあり、倉庫や製造現場での混乱が起こりやすくなります。そのため、ラベル作成をシステム化する企業も増えると予測されます。

改正に備えるために企業が取るべき対策

ラベル表示の改正に備えるには、次のステップが効果的です。

使用しているすべての化学物質をリスト化する
現在使用中のラベルがGHS最新版に準拠しているか確認する
小分け作業の手順を見直し、ラベル貼付の標準化を進める
ラベル管理ソフトの導入を検討する
現場教育を強化し、ラベル読み取りミスを防ぐ

2026年改正は、ラベル運用の精度向上を企業全体に求めています。この変化を早期に受け入れることで、安全性の向上だけでなく取引先からの信頼性向上にもつながります。

企業に求められる2026年以降のリスクアセスメント対応

2026年の労働安全衛生法改正では、SDSとラベル表示に加えて「リスクアセスメント（RA）」の強化が重要項目です。リスクアセスメントは、化学物質の危険性を評価し、適切な管理方法を決定するプロセスですが、改正後は対象物質の拡大と手法の明確化により、企業の実務が大きく変わると予測されています。これまでRAが十分に行われていなかった企業も、法改正を機に管理体制の強化が求められます。

リスクアセスメント対象物質が大幅に増加する理由

リスクアセスメントの対象は、これまで「通知対象物質」や「特定化学物質」に限られていました。しかし、2026年改正ではSDS義務物質の増加に伴い、RAの対象物質も広がります。特に以下の性質を持つ物質が新たに追加される見込みです。

健康有害性の区分が追加された物質
GHS分類で危険性が再評価された物質
混合物で有害成分が増加したもの
ナノ材料など新規材料関連物質

これにより、従来はRAの対象外だった物質にも評価が必要になり、評価業務の負担は確実に増えます。とくに製造業や金属加工業では影響が大きいでしょう。

改正後のリスクアセスメント手法はどう変わる？

これまで多くの企業では、簡易的なリスクアセスメント手法を用いてきました。しかし2026年改正後は、以下のように精度の高い評価手法が求められます。

最新のGHS分類を踏まえた危険性評価
作業実態を含めた暴露評価の精度向上
管理措置の継続的改善を前提とした評価
評価結果の記録・保存のルール化

特に暴露評価では、作業環境測定や換気能力の見直しなど、実務的な改善が必要になります。これにより、リスク評価の「実効性」がより重視されます。

中小企業が特に苦しむ理由とよくある失敗例

リスクアセスメント強化は、中小企業にとって大きな負担となる可能性があります。理由としては次の点が挙げられます。

RA担当者が1名しかおらず負荷が集中する
化学物質の危険性を理解できる専門人材が不足している
評価テンプレートが統一されていない
そもそも化学物質のリスト化が完了していない

また、業務の中では次のような失敗が頻発します。

SDSを読まずに評価してしまう
前年度の評価を流用し、内容を更新しない
作業工程が変わったにもかかわらず再評価をしない
評価結果と管理措置が整合していない

これらは行政指導の対象となるだけでなく、事故発生時には企業責任が問われる可能性が高くなります。

改正後は「リスクアセスメントの記録保存」が義務化される方向

2026年改正では、RAの記録保存ルールが明確化される見込みです。従来は「記録を残すことが望ましい」とされていましたが、改正後は一定期間の保存が義務化される可能性があります。

保存が求められる情報の例は次のとおりです。

使用化学物質の名称と危険性
作業者の暴露状況（作業内容・時間）
評価の方法と結果
講じた管理措置（換気・保護具・工程改善など）
改善後の再評価結果

これにより、紙ベースの管理では限界が生じるため、デジタル化への移行が進むと予測されます。

行政指導が強化される可能性と企業が備えるべき点

政府は、化学物質管理の不備が原因の事故が増加していることを受け、 2026年以降の行政指導を強化する方針を示しています。特に次の項目は重点的にチェックされる可能性があります。

評価対象物質が正しくリスト化されているか
SDS情報が最新かどうか
RAのプロセスが形式的でないか
管理措置が実際に現場に反映されているか

これにより、企業は「形式的に評価するだけ」の運用では通用しなくなります。現場実態に即した評価が求められるため、現場担当者との連携がより重要になります。

未来を見据えたリスクアセスメント体制の構築

2026年改正は、企業にとってリスクアセスメント体制を根本から見直す絶好の機会です。次のステップを踏むことで、企業は改正後も安定した運用を続けられます。

化学物質管理システムの導入
定期的な社内研修の実施
管理措置の改善サイクルの確立
専門家との連携（外部コンサル・産業医など）

法改正の流れは今後も続くと予測されるため、企業は長期的な視点での対策が不可欠です。リスクアセスメントの質を高めることは、従業員の安全だけでなく、企業価値を大きく向上させる要素となるでしょう。

SDS更新義務の強化：更新頻度・記載内容・管理体制の見直し

2026年の労働安全衛生法改正では、SDS（安全データシート）の「更新義務」が大きな焦点となります。 SDSは化学物質の危険有害性、取り扱い方法、保管方法、応急処置などを正確に伝えるための文書であり、企業が適切な化学物質管理を行うための最も重要な情報源です。これまでSDSの更新は企業の判断に委ねられる部分が多く、更新頻度が不十分なケースも多々見られました。しかし改正後は、最新情報の反映がより厳格に求められ、管理体制全体の見直しが必要になります。

SDS更新義務が強化される背景

近年、化学物質に関する健康影響の研究が進み、毒性データが頻繁に更新されています。国際的にもGHS分類の改訂が進んでおり、古いデータに基づくSDSは現場の安全確保に不十分です。そのため、政府は「最新の科学情報を反映したSDSを常に提供する」ことを法的に求める方向へ動いています。

改正後に求められるSDS更新のタイミング

SDS更新が必要となる典型的なタイミングは次のとおりです。

GHS分類が更新された場合
化学物質に関する新たな毒性データが発表された場合
製造方法や成分配合が変更された場合
法令が改正され、SDS記載項目が変更された場合
緊急時対応内容に変更が生じた場合

これらのタイミングに該当する場合、速やかにSDSを更新し、取引先および使用現場に提供することが求められます。特にGHS分類の改訂は今後も続くため、企業は継続的に情報収集する必要があります。

SDSの記載内容で見直しが求められる項目

2026年改正では、SDSの各セクションの記載基準も見直される可能性があります。特に重要となるのが次の項目です。

危険有害性の分類（GHSとの整合性強化）
化学品名および成分情報の透明性向上
ばく露対策・保護具の詳細記載
物理化学的特性の追加情報
環境影響（エコトキシコロジー）の記載精度向上

これらの情報が古いままだと、現場のリスクアセスメントの質が低下し、事故につながる可能性が高まります。そのため、SDS更新は単なる義務ではなく企業の安全管理の基盤となる行為です。

SDS管理で企業が抱える典型的な課題

多くの企業がSDS管理で次のような問題を抱えています。

更新されたSDSが現場に行き届いていない
紙で保管しているため更新漏れが発生する
担当者がSDSの読み取りに不慣れ
古いSDSが混在し、どれが最新か分からない
取引先との間でSDSの更新タイミングが違う

これらの問題は改正後に重大なコンプライアンス違反となる可能性があるため、根本的な仕組みの見直しが必要です。

SDS更新義務強化に合わせた管理体制再構築

2026年改正に対応するためには、企業は次のような管理体制を整備する必要があります。

SDSを電子データで一元管理する仕組みの導入
更新情報を自動通知できるシステムの活用
現場作業員がSDSをすぐ確認できる環境の整備
更新SDSの配布ルールをマニュアル化
担当者教育と定期的な理解度テストの実施

紙管理からデジタル管理への移行は、更新漏れを防ぐだけでなく、リスクアセスメントやラベル更新との連携が取りやすくなるなどメリットが大きいです。

SDS更新を怠った場合のリスク

改正後、SDS更新を怠ることは次のような重大リスクにつながります。

行政指導・罰則対象となる可能性
労働災害発生時の企業責任増大
取引先からの信用低下
リスクアセスメントの不備として指摘される
内部監査での不適合判定

SDSの更新は法令遵守の柱であると同時に、企業価値を守るための重要な取り組みと位置付けるべきです。

改正に向けたSDS更新体制構築のロードマップ

2026年改正に向けて企業が取るべき代表的なステップは次のとおりです。

自社で使用しているすべての化学物質リストを作成する
各SDSが最新版かどうかを確認する
更新頻度の高い物質を優先的に管理する
SDSの電子管理システムを導入する
社内教育を強化し、SDS理解度を高める

これらのステップを実践することで、改正施行時に混乱なく移行することができます。 SDS更新義務の強化は、企業にとって負担ではなく「安全レベル向上のチャンス」と捉えるべきです。

企業が取るべき具体的な準備ステップ

2026年の労働安全衛生法改正は、企業にとって“待ったなし”の対応を迫る内容です。特にSDS、ラベル、リスクアセスメントの3要素が同時に強化されるため、事前の準備が遅れるほどその負荷は大きくなります。ここでは、企業が確実に改正へ対応できるよう、実務レベルで必要となるステップをチェックリスト形式で整理します。中小企業でもすぐに着手できる内容に落とし込み、現場で迷わず進められるように構成しています。

ステップ1：自社で扱う化学物質のリスト化

改正対応の第一歩は「現状把握」です。使用している化学物質が整理されていなければ、 SDS義務化の対象かどうか判断できず、ラベルやリスクアセスメントの見直しにも進めません。まずは次の項目を網羅するリストを作成します。

化学物質名（商品名・一般名）
メーカー名・仕入れ先
用途（製造・洗浄・加工など）
使用量・頻度
SDSの最新版有無

このリストは改正後も継続的に使用する基盤データとなるため、正確さが重要です。紙管理では更新漏れが発生しやすいため、可能であればデジタル化しておくことが望まれます。

ステップ2：SDSの最新版を収集・確認する

リスト化が完了したら、次は各物質のSDSが最新版かどうかを確認します。更新時期が不明な場合は、メーカーまたは仕入れ先に問い合わせて最新版を入手します。 2026年改正後は、情報更新が頻繁になるため定期的にSDS更新のチェックが必要になります。

GHS分類が最新版と一致しているか
危険有害性の区分が変更されていないか
保護具・応急処置内容が最新か
製造方法・成分配合の変更が反映されているか

特に危険区分が変わった物質は、ラベルやリスクアセスメントも同時に見直す必要があります。

ステップ3：ラベル表示の見直しと再作成

SDSの確認が終わったら、次はラベルです。 2026年改正により、ラベル表示の義務項目はさらに明確化・厳格化されます。特に小分け作業を行う企業では、すべての容器に正しいラベルが貼られているかを確認する必要があります。

GHSピクトグラムは最新基準を満たしているか
注意喚起語（Danger / Warning）は正しいか
混合物の場合、構成成分が適切に表示されているか
ラベルの視認性（汚れ・色褪せ・破損）は問題ないか

GHS分類の変更に伴い、ピクトグラムの数が増えるケースもあるため、ラベルの再作成を前提に準備しておくべきです。

ステップ4：リスクアセスメントを改正基準に合わせて再評価

2026年改正後は、リスクアセスメントの対象物質が増加し、評価方法も明確化されます。そのため、従来の簡易的な評価手法では対応が難しくなる場面が増えます。まずは評価対象物質を整理し、その中から優先度の高いものから再評価を開始します。

暴露量（作業時間・作業場所）の見直し
換気装置の能力確認
必要な保護具の適合性チェック
作業手順書の改善点洗い出し

RA結果は必ず記録として残し、更新のタイミングでは再評価を行う習慣を定着させることが重要です。

ステップ5：化学物質管理のデジタル化を検討する

今回の改正は、紙管理では対応しきれないほど情報更新の頻度が増えることが確実です。そのため、多くの企業で「化学物質管理のDX（デジタル化）」が検討されています。

電子SDS管理システム
ラベル自動生成ツール
リスクアセスメント管理ソフト
現場でQRコードからSDSを即時閲覧できる仕組み

これらのツールを導入することで、業務効率が大幅に向上し、改正後の負荷を軽減できます。

ステップ6：従業員教育を強化する

法改正は現場の作業者にも直接影響します。 SDSの読み方、ラベルの見方、危険性の理解など、教育内容をアップデートする必要があります。

化学物質の危険性に関する基礎講習
GHSラベルの読み取り訓練
SDSを使った作業リスクの確認方法
緊急時対応の実践トレーニング

教育は一度で終わりではなく、定期的に実施することで安全意識の定着につながります。

改正対応チェックリスト

以下のチェック項目をすべて満たしていれば、改正対応は順調に進んでいます。

化学物質リストを最新状態で管理している
すべてのSDSが最新版で揃っている
ラベル表示を改正基準で見直し済み
リスクアセスメントを優先順位をつけて更新している
化学物質管理をデジタル化している
従業員教育が継続的に実施されている

これらは2026年改正に確実に対応するための“最低ライン”です。早い段階で準備を開始すれば、改正施行後の混乱を最小限に抑えることができます。

まとめ：2026年改正への最適な備えと今後の予測

2026年の労働安全衛生法改正は、企業の化学物質管理を大きく変える転換点となります。 SDSの義務化範囲拡大、ラベル表示の厳格化、リスクアセスメントの強化という「三位一体の改正」が同時に実施されるため、企業側の事前準備が非常に重要です。単なる法令対応ではなく、企業の安全管理レベルを一段引き上げる絶好の機会とも言えます。ここでは、改正内容を踏まえた総まとめと、今後数年の動向予測を整理します。

2026年改正の本質は「化学物質管理の質を上げること」

今回の改正の目的は、単に規制を強化することではありません。本質は、化学物質に関する情報の流れをより正確にし、現場の安全レベルを向上させることです。正しいSDS、正しいラベル、正しいリスクアセスメントが揃って初めて、企業は「実効性のある化学物質管理」を実現できます。これが2026年改正の最大の狙いです。