ウナギ ワシントン条約会議で全否決 日本の外交戦略の凄さ

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ワシントン条約会議でEU提案が否決された事実

2025年に開催されたワシントン条約(CITES)締約国会議で、EUが提出した「ウナギ全種の国際取引規制」案が大差で否決された。賛成35、反対100、棄権8という結果は、提案の不十分さと国際社会の複雑な利害を端的に示している。EUはニホンウナギを含む全19種のウナギを対象に、附属書ⅡまたはⅢへの追加を求めた。しかし、多くの締約国は科学的根拠や経済的影響を十分に考慮していないと指摘し、賛成に回らなかった。特にアジアとアフリカの漁業国は、自国の生計と資源管理権を守る観点から強く反対した。

ウナギ全種規制とは何を意味するのか

もしEU案が可決されていれば、国際取引には輸出国の科学的根拠に基づく「非損害証明(NDF)」が求められ、事実上の輸出制限になっていた。つまり、ニホンウナギの稚魚や加工品の輸出入は大きく制限され、国際流通は大幅に縮小していた可能性が高い。さらにEUは「ウナギは地球規模で危機的状況にある」と主張し、全種一括の規制が必要と訴えた。ただし、種ごとの資源状況には差があるため、一括規制は科学的に過剰だという反論も根強い。

附属書Ⅱ・Ⅲの規制レベルと影響

附属書Ⅱは「絶滅危惧ではないが取引監視が必要な種」を対象とし、商用取引に制限がかかる。附属書Ⅲは「各国が自国の保護策を補完するために国際協力を求める種」に適用される。EUは複数の選択肢を提示したものの、最終的に附属書Ⅱを強く求めたため、漁業国は「実質的な禁止だ」と警戒を強めた。日本は特に、データに基づかない包括規制では市場や産業に過度な負担を与えると主張した。

今回の否決が世界に与えたインパクト

今回の否決は、水産資源管理を巡る世界の潮流を象徴している。なぜなら、環境保護を重視するEUと、持続可能な利用を重視するアジア・アフリカの溝が鮮明になったからだ。特にウナギは文化的価値が高く、国内経済への影響も大きい。したがって、規制には慎重な議論が必要になる。また、日本の外交努力が票決に影響したことは、国際的な水産政策における日本の発言力を示す結果となった。ただし、これは最終的な勝利ではなく、将来の議論に向けた「一時的な猶予」にすぎない。

水産国と環境保護国の対立構図

EUは環境保護を名目に国際規制を推し進めたが、水産国は「規制強化によって地域の漁獲・流通が不当に制限される」と懸念した。とくにアジアのウナギ産業は数十万人の雇用を支えている。これに対してEUは強い反論を展開したが、科学的データの解釈に誤差があると指摘され、反対多数となった。一方、環境NGOはEU案を支持していたため、今後も国際世論が規制を求める圧力は続くとみられる。

今後の議論の焦点と本記事の結論要約

今回の否決は重要だが、ウナギ資源が安定したという意味ではない。むしろ、国際社会は「資源管理の強化」と「既存データの精度向上」を求めている。本記事の結論として、EU案の否決は日本の外交戦略が機能した結果ではあるものの、ウナギ資源が抱える根本的課題は依然として残っている。今後は、科学的データの発信力向上、違法漁業対策の強化、完全養殖の研究加速が不可欠である。規制を避けただけでは十分ではなく、持続可能な利用体制を確立することこそ、次の国際会議で日本が評価される鍵になる。

EUがウナギ全種規制を主張した理由

EUが今回のワシントン条約会議で「ウナギ全種を国際規制すべきだ」と主張した背景には、欧州域内で進む資源枯渇の深刻化がある。ヨーロッパウナギはすでに絶滅危惧種として扱われ、各国は強い保護措置を導入している。しかし、密漁や地理的分布の変化が続き、回復の兆しは限定的だ。つまり、EU域内の規制だけでは資源回復が進まず、国際的な管理枠組みが必要だと判断したのである。特にシラスウナギの来遊量が低迷し続けたことは、EUの危機感を一層高めた。

ヨーロッパウナギが直面する深刻な資源枯渇

EUが強調した最大のポイントは、ヨーロッパウナギの資源量が過去数十年で急減したという事実である。1970年代と比較すると、来遊量は10%以下にまで低下した年もある。さらに、河川の環境劣化、ダム建設、海流の変化などが複雑に絡み、回復を妨げている。加えて、不透明な流通や密漁の横行が国際的な課題となっている。EUはこれらを踏まえ、「地域内の努力だけでは限界がある」と判断した。

EU域内で進む保護政策と規制強化

EUはすでに複数の保護政策を導入している。例えば、漁獲制限、養殖用稚魚の輸出規制、河川環境の改善プロジェクトなどである。しかし、これらの政策を続けても回復が遅く、成果が限定的だという声が強まっている。特にシラスウナギの輸出監視は厳格化されたが、違法ルートが依然として残るため、国際的な規制が必要だとする意見が多数を占めている。

科学的根拠として示された来遊量の低迷

EUの提案には複数の科学的根拠が添付された。その中心にあるのは「来遊量の低迷と長期的減少」である。近年、一時的に回復した年もあったが、全体としては低い水準が続き、「持続不可能な状態」と評価されている。EUはこのデータをもとに、「ウナギ全種を包括的に管理すべきだ」と主張した。ただし、この根拠は主にヨーロッパウナギのデータであり、ニホンウナギやアメリカウナギまで一括で規制対象にすることに対しては、科学的妥当性に疑問があるとする専門家も多い。

EUが利用した『一括規制』という戦略的フレーム

EUが今回の会議で採用したのは「ウナギ全種をまとめて規制する」という戦略である。これは環境保護の観点では一貫性があるように見えるが、実際には種ごとの生息域、漁獲量、科学データが大きく異なるため、各国から反発を招いた。特にアジア諸国は、ニホンウナギの資源状況は欧州のウナギとは異なると主張し、包括規制は合理性を欠くと反論した。この戦略は国際的合意形成を難しくし、結果的に否決につながった。

域外取引の管理を強化したいというEUの意図

EUが重要視したのは「域外取引がヨーロッパウナギの減少に影響している」という見解である。EU内の強い規制の結果、アジアやアフリカを経由した複雑な流通ルートが生まれ、違法取引の追跡が困難になっている。EUはこれを問題視し、世界規模の管理枠組みを構築することで透明性を高めようとした。しかし、この考え方はヨーロッパウナギに特化した課題を他地域に押しつける結果となり、多くの反対票を招いた。

環境NGOによる強いロビー活動

今回のEU案の背景には環境団体の強いロビー活動があった。欧州では、環境保護意識の高まりにより、野生生物取引を厳しく監視する潮流が強い。NGOは各国政府に対し「規制強化こそ唯一の解決策」と訴え、世論形成を進めてきた。しかし、これらは欧州の文脈に偏っており、アジア・アフリカなどの実情と整合しない側面もある。この乖離が「世界全体で合意に至らない理由」の一つといえる。

EUの提案が抱えていた構造的な限界

EU案は環境保護としては正当性があるものの、国際政治としては限界が多かった。第一に、包括規制の科学的妥当性に疑問点が多い。第二に、各地域のウナギ産業の規模や文化的背景が十分に考慮されていなかった。そして第三に、EU自身の資源管理が成果を挙げていない状態で国際規制を求めたため、各国から「責任転嫁ではないか」との批判が出た。これらの理由が重なり、今回の否決という結果につながったのである。

日本が反対した理由とは何か

今回の否決で中心的な役割を果たしたのは日本である。日本は、ニホンウナギの資源状況は「長期的減少トレンドの中でも直近は回復傾向が見られる」として、包括規制には反対した。特に問題となったのはEU案が「全種一括規制」であり、科学的データの差を無視している点である。ニホンウナギとヨーロッパウナギでは資源動態も漁業構造も異なるため、同列に扱うことは適切でないと判断した。また、日本国内の養殖業・加工業・流通業にとって規制強化は大きな打撃であり、国民生活に直結する産業への影響が無視できないという現実もあった。

最新データが示した「回復傾向」で日本は反論

日本が示した科学的データには、近年のシラスウナギ採捕量の一部回復が含まれている。特に2023〜2025年にかけて、採捕量が安定しつつある地域があるため、「直ちに国際規制を強化すべき状態ではない」と主張した。もちろん資源量全体が十分とは言えないが、「包括的な国際規制より、地域ごとの管理こそ有効」と示す根拠として重要な材料になった。これにより、多くのアジア諸国が日本の立場に理解を示した。

米国・中国・韓国が反対に回った背景

今回の投票で鍵を握ったのは、米国、中国、韓国という主要国が日本と同じく反対にまわったことである。これらの国々はウナギ資源に関する事情が異なるものの、EU案の包括規制には共通して疑問を持っていた。米国はアメリカウナギの管理を国内制度で進めており、国際規制が不要と判断した。中国と韓国はニホンウナギの主要消費国であり、産業への影響が大きい。また、科学的データの不確実性を理由に「拙速な規制は混乱を招く」と主張し、EU案の再検討を求めた。

地域別の利害関係が生んだ票の流れ

ウナギは地域ごとに利用目的も管理体制も異なる。アジアでは食文化として深く根付いており、経済規模も大きい。一方、欧州では環境保護の象徴的存在であり、漁業への依存度も低い。この差が議論の構造を大きく変えた。つまり、EUは「環境保護の国際標準化」を重視し、アジアは「持続可能な利用と地域管理」を優先したのである。この利害の相違は、票の分裂を決定づけた。

アフリカ諸国の票が大勢を決めた理由

今回の否決を決定づけたのはアフリカ諸国の動きだと言われている。アフリカの多くの国は「ウナギ資源そのものに強い関心はない」が、「国際規制が自国の水産管理にも影響する」という理由で慎重な姿勢を示した。また、EUが強く主導した規制案に対して「地域の意見が反映されていない」という不満もあった。こうした状況を踏まえ、日本はアフリカ諸国と個別に協議し、既存の水産支援や研究協力を丁寧に説明した。結果として、賛成に回る国は少なく、多くが反対票を投じたのである。

アフリカが反対したもう一つの理由:自国主権の問題

アフリカ諸国が反対した背景には、自国資源の管理権を守りたいという強い意識がある。国際的な規制は一度導入されると、その後の資源利用に制限がつく可能性が高い。EU案が成立した場合、「他の水産資源への規制強化の前例」になることを懸念する声も多かった。そのため、アフリカ諸国は今回の提案を「地域の事情を無視した包括規制」と位置づけ、自国の主権を守る選択をしたのである。

外交アプローチが票を動かした

EU案が否決された背景には、日本の戦略的外交があった。水産庁と外務省は事前に各国と個別協議を行い、データと地域事情を丁寧に説明した。とくにアフリカ諸国に対しては、これまでの協力実績や支援プロジェクトを示し、「ウナギ規制はあなたたちの漁業にも影響する」という視点を共有した。このアプローチが信頼につながり、反対票の形成に大きく貢献したとされる。

国際政治としての判断:EU案は『不均衡』だった

最終的に否決された理由は、「EU案が科学的・政治的に均衡を欠いていた」点にある。科学的には、対象19種の資源動態が大きく異なるため、一括規制は根拠不足とされた。政治的には、EU自身の資源管理が十分な成果を挙げていない中で他国に規制を求めたため「説得力に欠ける」と評価された。結果として、多くの国が「まずは地域管理を強化するべきだ」と考え、EU案を支持しなかったのである。

水産庁と外務省が主導した国際戦略

今回のワシントン条約会議で日本がとった戦略は、これまで以上に組織的で、綿密な外交体制が敷かれていた。水産庁が資源データを整理し、外務省が各国との協議窓口を担うという分業が徹底された。日本政府は会議の数ヶ月前からアジア諸国、アフリカ諸国、太平洋諸島国家、さらにはEU加盟国に対しても説明を行い、「包括規制は科学的に妥当ではない」と訴え続けた。この早期アプローチが、投票結果に大きな影響を与えたと見られている。

事前交渉で重視された『科学的根拠』

日本が最も重視したのは「科学的データの提示」である。各国が規制に賛成する背景には、「十分なデータがないために規制が必要ではないか」という不安がある。この不安を取り除くため、日本は国内外の研究機関が共同でまとめたデータを用いて、ニホンウナギの資源回復状況を丁寧に説明した。例えば、最新の来遊量データ、地域別採捕量の変動、遺伝的多様性の安定性など、複数の科学的指標がまとめられ、透明性の高い形で提示された。

『包括規制は科学的に不適切』という日本の主張

EU案の核心は「ウナギ全種を一括で扱うべき」というものであったが、日本はこの考え方に強く反論した。なぜなら、ウナギは種ごとに生息環境、回遊経路、資源動態が大きく異なるため、一括規制では正確な資源管理ができないからである。ニホンウナギは太平洋、ヨーロッパウナギは大西洋と、回遊の仕組み自体が違う。科学的視点から見れば、種ごとに対策を変えるのが合理的である。日本はこの論点を複数の会合で繰り返し提示し、多くの国が合理性を認めた。

アフリカ諸国への丁寧な説明が奏功

今回、日本の外交で最も高く評価されたのがアフリカ諸国との連携である。アフリカは水産資源の管理に課題を抱える国が多く、国際規制が自国経済に影響することを警戒している。そこで日本は、水産支援プロジェクトや共同研究の実績を示し、規制案がアフリカの漁業活動に及ぼす影響を具体的に説明した。実際、アフリカ諸国の多くは「一括規制は不公平」と感じており、日本の説明はその不安を和らげた。結果として、反対票の形成に大きく寄与した。

二国間協議で示された日本の誠実な姿勢

水産庁と外務省は、会議期間中も各国と個別に協議を重ねた。そこで強調されたのは「規制を拒否するのではなく、科学的データに基づく合理的管理を求めている」という姿勢である。単なる産業保護と受け取られないよう、研究データを開示し、資源管理の現状を共有した。この透明性の高さは国際社会から評価され、日本の主張に対する信頼性を高めた。

日本国内産業への影響を踏まえた戦略構築

ウナギ産業は日本の食文化と経済に深く結びついている。稚魚の採捕、養殖、加工、販売まで含めると関連産業の経済規模は数千億円規模に及ぶ。もし包括規制が導入されれば、流通の停滞、価格高騰、関連企業の経営悪化など、影響は大きい。政府はこうした国内事情を踏まえつつ、国際社会に「産業を守るだけでなく、持続可能な利用を実現する姿勢がある」とアピールした。これが規制反対の正当性を高める要因となった。

文化としてのウナギ食をどう守るか

ウナギは単なる水産資源ではなく、日本文化の象徴の一つである。土用の丑の日をはじめ、季節行事としての需要も多い。こうした文化的価値を説明することは、国際会議では容易ではない。しかし、日本代表団は「文化的価値は無視できないが、資源管理と両立できる」と丁寧に説明し、感情論に陥らず合理的な主張を貫いた。この点も多くの国から評価され、反対票形成の背景となった。

日本のロビー活動が示した新しい外交モデル

今回の結果は、日本のロビー活動の成功例といえる。従来の日本外交は「科学データ重視」でありながら、発信力が弱いと指摘されていた。しかし今回は事前交渉、データ提供、二国間会談の迅速化など、積極的な姿勢が功を奏した。特に、アフリカ諸国へのアプローチは、今後の国際水産会議で重要なモデルとなるだろう。つまり、日本は「データと外交を組み合わせる」新たな国際戦略を実践したのである。

国際的に見てもウナギ資源は不安定なまま

EU案が否決されたからといって、ウナギ資源が安全というわけではない。むしろ、長期的な視点で見れば、世界各地のウナギ資源は依然として不安定である。ヨーロッパウナギは長年の減少トレンドから抜け出せず、アメリカウナギも一部地域で低水準が続く。ニホンウナギも短期的には回復傾向が見られるものの、長期的には大きな変動が続いている。つまり、規制否決は「状況が改善した」という意味ではなく、「科学的根拠に基づいて慎重な議論が必要」という判断に過ぎない。

長期的減少傾向の継続という深刻な問題

国際研究グループの分析によれば、ウナギの長期的減少傾向は依然として続いている。特に問題視されているのは、環境変化によって稚魚の回帰が安定しない点である。海洋環境の変動、気候変動、海流の変化が複合的に影響し、来遊量が年ごとの大きな振れ幅を持ち続けている。この不安定さは、資源管理の予測を難しくし、回復をさらに遅らせる要因となっている。したがって、短期的な増加を「資源回復」と断定するのは危険とされる。

日本国内でも依然として課題が残る

日本でもウナギ資源の課題は根強く残っている。シラスウナギの採捕量が増えた地域もあるが、すべての地域で回復したわけではない。また、河川環境の悪化やダムによる遡上阻害など、生息環境の改善が進まないままの地域も多い。さらに、養殖業に依存する日本では、稚魚の安定供給が確保できないと産業構造そのものが揺らぐ可能性がある。つまり、日本は「規制回避」に成功しただけで、根本的課題はまだ解決できていない。

密漁とIUU漁業の深刻化

資源管理の妨げとなっている最大の要因の一つがIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)である。ウナギは高値で取引されるため、密漁が後を絶たない。特にシラスウナギは市場価格が高騰しやすく、違法採捕の誘因となる。密漁された稚魚は国際的な密輸ルートで流通し、正規の統計に反映されないため、資源の実態把握を困難にする。日本国内でも、違法採捕で摘発されるケースは毎年報告されている。この問題を放置すれば、どれだけ科学的な管理をしても改善は難しい。

資源データの不足が管理を難しくする

ウナギの資源管理は、他の水産資源に比べてもデータ不足が深刻である。回遊の仕組みの複雑さ、産卵場所の特定が難しいこと、海洋環境の変動の影響を受けやすいことなどが理由だ。データが少ないため、資源モデルの精度が上がらず、政策判断にも不確実性が伴う。EUが規制強化を求める背景にも「データ不足への危機感」があり、この問題は国際的に共有されている課題である。

EUが再提案する可能性は高い

今回の否決でEUが引き下がるとは限らない。むしろ、次回会議でEUが再提案する可能性は高いと見られている。環境NGOの影響力が強い欧州では、ウナギ保護の世論も高く、政治的なプレッシャーが強い。さらに、欧州の資源状況が改善しない場合、EUが再び国際規制を推し進めることは十分に考えられる。今回の否決は、日本にとって時間を得たに過ぎず、将来の議論への備えが必要である。

国際世論が求める『透明性』と『説明責任』

今後のウナギ議論で重要になるのは、国際的な透明性の確保である。資源データ、採捕量、流通経路、違法漁業対策などの情報を、国際社会に対して積極的に公開することが求められる。日本が透明性の高い管理を行えば、将来的にEUが規制強化を求めた際も「十分な管理を行っている」と反論できる。逆に、情報公開が不十分であれば、EUは強硬姿勢を続ける可能性が高い。したがって、科学的データと管理状況の発信力が今後の鍵になる。

資源管理は各国単独では不可能

ウナギは広範囲に回遊するため、一国だけの努力では資源保全は不可能である。産卵は太平洋・大西洋と海域が異なり、成育環境も国境を超えて広がる。そのため、国際共同研究やデータ共有が不可欠である。今回の否決は、地域ごとの事情を尊重する結果となったが、長期的な資源保全には「共同管理」が避けられない。各国が協調しつつ、地域特性を踏まえた柔軟な管理を進めることが今後の課題である。

完全養殖技術の最新状況(2024〜2025年)

日本が今後のウナギ資源管理で最も期待を寄せているのが「完全養殖技術」である。完全養殖とは、人工ふ化から成魚までのすべての工程を人の管理下で行う生産方式であり、資源の乱獲を抑え、自然資源への依存度を大幅に減らせる。しかし、ウナギは生態が非常に複雑で、人工ふ化した稚魚を安定的に成長させることは難しい。2024〜2025年の最新研究では、人工ふ化シラスの生残率向上、餌組成の改良、成育環境の最適化などが進展しているが、商業規模にはまだ距離があるとされる。

技術的な課題と研究の最前線

完全養殖には複数の技術課題が存在する。第一に、人工ふ化した仔魚の食性が特殊で、餌の再現が難しいこと。第二に、成長速度が天然より遅く、養殖コストが高くなりがちなこと。そして第三に、生残率にばらつきが大きい点である。国立研究機関や水産大学校では、餌の改良や水槽環境の最適化を通じて課題を克服しようとしており、特に2024年以降は長期飼育の成功例が増えてきた。今後は企業との共同研究も進み、実用化に向けた動きが加速すると期待されている。

商業化までのロードマップ

完全養殖の商業化には段階的な計画が必要である。短期的には、研究段階で得られた技術を実証プロジェクトに移行し、生産量の安定化を目指す。中期的には、生産コストの削減と供給量の確保が不可欠であり、養殖環境の統一規格化や餌の改良が鍵となる。長期的には、完全養殖ウナギが市場に安定供給される状態をつくることで、天然資源の負荷を大幅に軽減できる。日本政府は2030年代の商業化を目標に掲げており、今後の研究成果が期待されている。

取引記録(トレーサビリティ)義務化の重要性

資源管理を進める上で、取引記録の義務化は欠かせない。シラスウナギの流通は複雑で、不透明な取引が資源管理の妨げとなってきた。これを解消するため、水産庁はトレーサビリティ制度を強化し、採捕から流通、養殖、加工までの記録を義務化している。これにより、違法採捕された稚魚が正規流通に紛れ込むリスクを減らし、IUU漁業対策として大きな効果を発揮する。将来的にはデジタル管理の導入も検討され、透明性向上が加速する見込みである。

流通管理強化がもたらす効果

トレーサビリティ強化は、産業全体の信頼性を高める効果がある。流通過程が明確になれば、消費者は安心してウナギを購入でき、企業も正規取引であることを証明しやすくなる。また、不正取引が減れば、資源管理の精度が向上し、政策判断がより正確に行える。その結果、資源回復への取り組みが強化され、国際社会からの評価も高まる。つまり、トレーサビリティは単なる管理ではなく、資源保全の基盤を支える重要な制度と言える。

IUU対策としての国際的な役割

日本のトレーサビリティ制度は、国際的なIUU対策にも貢献する。ウナギは国境をまたいで流通するため、一国だけでは完全な管理は難しい。そのため、日本が透明性の高い制度を導入すれば、他国に対しても模範となり、国際的な協力体制構築の推進力となる。特にアジア地域では、稚魚の国際移動が一般的であり、協調的な管理が不可欠である。日本が率先して制度を確立すれば、将来の国際規制議論でも信頼性の高い立場を築くことができる。

国際協力の必要性と日本の役割

ウナギ資源は国際的な生態系を持つため、単独管理では限界がある。日本は、アジア諸国を中心に共同研究や監視体制の構築を進めており、今後はEUや米国とも連携を強化する必要がある。特に、産卵場所付近の海洋観測、稚魚の来遊量モニタリング、遺伝的分析などは国際協力が不可欠である。これらの研究データを共有すれば、より精度の高い資源モデルが作られ、持続可能な管理に近づく。つまり、日本はアジアのリーダーとして、国際管理の枠組み構築に積極的に関与すべき立場にある。

持続可能な利用へとつながる未来戦略

完全養殖とトレーサビリティ管理を軸とした日本の戦略は、持続可能なウナギ利用への道筋を示している。資源の再生には時間がかかるが、科学的データの蓄積、密漁対策、流通の透明化、そして国際協調の強化がそろえば、資源状態は着実に改善する。さらに、完全養殖が商業化されれば、天然資源への依存度は大幅に減り、環境負荷の軽減と産業の安定化が同時に進む。日本は今、世界でも最も実行力のある「持続可能なウナギ管理モデル」をつくる重要な局面に立っている。

EU案の否決をどう評価すべきか

今回のワシントン条約会議でEUによるウナギ全種規制案が否決されたことは、日本にとって外交的な成功といえる。国際取引が継続できたことは、国内産業にとって大きな安心材料であり、短期的な混乱を避ける結果となった。日本政府の丁寧な説明と科学的根拠に基づく主張は、多くの国々から一定の信頼を獲得した。しかし、これはウナギ資源が安全になったことを意味しない。EU案が否決された背景には、科学的妥当性の不足と国際的な利害対立があり、日本が完璧に資源管理を達成しているわけではない。

日本外交の成功とその限界

今回の否決は、日本外交が積極的かつ戦略的に動いた結果である。特にアフリカ諸国へのアプローチは高く評価され、国際協力の姿勢が信頼につながった。しかし、外交の成功だけで資源管理の問題が解決するわけではない。EUや環境NGOが指摘するように、ウナギ資源は依然として不安定であり、長期的な減少傾向も残る。つまり、日本は外交面では成果を上げたものの、次回会議で同じ戦略が通用する保証はない。資源の実態が改善しなければ、国際社会は再び規制を求める可能性が高い。

持続可能なウナギ利用へ向けた課題

2025年時点で、ウナギ資源の持続可能な利用には複数の課題が存在する。第一に、資源データの精度向上が不可欠である。産卵場所の特定、稚魚の来遊量の把握、遺伝的構造の分析など、基礎研究が十分とは言えない。第二に、IUU漁業の根絶が課題となる。密漁は日本だけでなくアジア各国で発生しており、国際的な監視体制が必要だ。そして第三に、国内外の消費需要を管理しながら、資源回復に向けた政策を並行して実施する必要がある。これらの課題を解決しなければ、持続可能な利用は実現できない。

科学データのさらなる蓄積が必要

持続可能な管理の前提となるのは、正確な科学データである。ウナギは回遊経路や産卵環境が複雑で、他の魚種に比べデータ取得が難しい。しかし、資源状態を判断するためには、海洋観測、標識放流、遺伝子解析、環境DNA(eDNA)などの多角的なアプローチが欠かせない。日本の研究機関はこれらの技術を積極的に導入しており、国際的にも高い評価を受けている。今後は、研究成果を国際会議で積極的に共有し、透明性の高いデータ提供を行うことで、資源管理の正当性を強化する必要がある。

企業・行政・消費者が果たす役割

ウナギ資源の持続可能性は、政府だけでは実現できない。企業は正規ルートでの仕入れを徹底し、トレーサビリティ制度に協力する必要がある。行政は監視体制を維持し、違法漁獲や密輸への厳格な取り締まりを進めるべきだ。そして消費者も、持続可能なウナギを選択する意識が求められる。特に夏の需要期には供給が逼迫しやすいため、適切な消費行動が資源保全につながる。つまり、持続可能な未来をつくるためには社会全体の協力が重要である。

国際社会とともに進む未来の管理モデル

ウナギは国際的に回遊する生物であり、一国だけの努力では資源回復は不可能である。今後は、アジア諸国との共同研究やEUとの科学的対話を深め、国際的な管理モデルを構築する必要がある。ウナギの生態は多くの謎に包まれており、国境を越えた研究によって初めて解明が進む。さらに、各国が共通のトレーサビリティ基準を導入すれば、IUU対策が大きく前進する。こうした国際協力は、将来の資源管理に不可欠な要素となるだろう。

次回会議への姿勢と日本の使命

EUは今後もウナギの国際規制を求める可能性が高く、次回のワシントン条約会議でも議論が再燃すると見られる。そのため、日本は今回の否決に安心せず、資源管理と研究をさらに強化し続ける必要がある。次回会議では、科学的根拠の強化、国際協力の深化、透明性の高い管理体制の実績が問われる。日本には「持続可能なウナギ管理モデルを示す」という重要な役割があり、その姿勢が国際社会からの信頼をより高める。

再結論:規制は避けられたが、真の勝負はこれから

今回のEU案否決は、一時的な勝利にすぎない。真の課題は、ウナギ資源を確実に回復させ、未来の世代へつながる管理体制を築くことである。日本は科学データ、産業、文化、外交のすべてを総動員し、持続可能なウナギ利用のモデルケースとなるべき立場にある。もし日本が積極的な資源管理に成功すれば、国際社会からの信頼はさらに高まり、次回会議でも強い発言力を維持できるだろう。規制を避けただけでは終わらない。ここからが本当のスタートである。