クマ対策の3本柱とは?予防・管理・対応で進む国の新政策

クマ被害が増加する今、必要なのは「3本柱のクマ対策」

近年、日本各地でクマの出没や人身被害が急増しています。環境省の発表によると、2023年度のクマによる人身被害は過去最多を記録し、2024年以降も高止まり傾向にあります。背景には、山林の荒廃やドングリなど餌の減少、人口減少による里山管理の衰退など、複合的な要因が存在します。

こうした状況を受けて政府や自治体は、クマとの「共存」ではなく「安全な距離を保つ共生」を目指し、対策を3本の柱で進めています。それが「①予防(侵入防止)」「②管理(個体数・行動管理)」「③対応・駆除(緊急対応)」です。

本記事では、この3本柱の政策をわかりやすく整理し、なぜそれが必要なのか、現場でどのように進められているのかを最新情報とともに解説します。クマ問題を「地域の安全保障」として捉える視点を持つことが、今まさに求められています。

クマ出没の急増と被害拡大、背景にある社会・環境の変化

日本では、近年クマによる人身被害や住宅地への出没が深刻化しています。環境省のデータによると、2023年度のクマによる人身被害は219人と過去最多を記録。特に東北・北陸地方では、秋にかけて農地や住宅地への侵入が相次ぎました。

この背景にはいくつかの要因があります。第一に、人口減少と高齢化により、里山や農地の管理が行き届かなくなったこと。耕作放棄地や放置果樹が増え、クマの餌場となっている地域も少なくありません。第二に、地球温暖化の影響でドングリなどの堅果類が不作になる年が増え、餌を求めて人里に出るケースが多発しています。

さらに、クマは学習能力が高く、一度人間の食料に接触すると「人の生活圏=餌場」と認識する傾向があります。このため、単発的な駆除や追い払いだけでは根本的な対策にならず、政策として体系的な対応が求められています。

政府は2024年以降、クマ対策を「予防・管理・対応」の3本柱で整理し、地方自治体に対して支援を強化しています。単なる「害獣駆除」ではなく、「生態系と人の安全を両立する政策」へと転換が進んでいるのです。

第1の柱:クマを人里に近づけない「予防・侵入防止」

クマ対策の基本は、そもそも人の生活圏にクマを「寄せつけない」ことです。環境省は、2024年度から「予防的クマ対策」を重点分野に位置づけ、住宅地や農地周辺での侵入防止策を強化しています。具体的には、電気柵の設置支援、放置果樹の伐採助成、ゴミ集積所の管理徹底など、地域単位での物理的・行動的な予防を推進しています。

また、クマが人間の食料に接触しないようにする「誘因物管理」も重要です。特に、キャンプ場や登山口付近では、生ゴミやペットフードの管理が不十分なケースが多く、クマの学習行動を誘発する要因となっています。自治体によっては、GPS付きの監視カメラやAI解析を導入し、早期に出没の兆候を検知する取り組みも進んでいます。

一方で課題もあります。電気柵の維持管理や資金負担は地域に委ねられることが多く、高齢化地域では人手不足から設置後の管理が滞ることも少なくありません。防除効果を維持するためには、地元住民・行政・ボランティアの協働が不可欠です。環境省は「地域ぐるみの予防対策」を支援する補助金制度を整備し、2025年度予算でも拡充が検討されています。

予防策は、クマの被害を最も効率的に減らす「第一防衛線」です。出没後に対応するより、侵入を未然に防ぐ方がはるかにコストもリスクも小さい。クマ対策の3本柱の中でも、この「予防」はすべての土台となる政策といえます。

第2の柱:クマを「見える化」する個体数と行動の管理政策

クマ対策の第2の柱は、「個体数」と「行動パターン」を科学的に把握し、適切に管理することです。環境省は2024年度に「クマ個体群モニタリング強化プラン」を策定し、全国の地方自治体に対し、クマの分布・生息密度を定期的に調査する仕組みの整備を求めています。これにより、クマが人里に出没する要因をデータで分析し、地域ごとに対策を最適化することが可能になります。

管理政策の中核は「特定鳥獣保護管理計画」です。これは、科学的データに基づき、捕獲数・保護区域・生息環境整備などを定める国の制度で、都道府県が策定・実施を担います。例えば北海道ではヒグマを対象に、GPS首輪による移動追跡を行い、人里への接近傾向を可視化する取り組みが進んでいます。東北地方でもドローンによる調査やAI画像解析が導入され、行動パターンの把握が加速しています。

一方で、課題も少なくありません。地域ごとに調査手法が異なるため、全国レベルで比較可能なデータの整備が進んでいないこと。さらに、「クマが多い地域」と「人への被害が多い地域」は必ずしも一致せず、個体数管理だけでは不十分なケースも見られます。重要なのは「数の管理」ではなく、「行動の管理」と「人とクマの接触機会の削減」を組み合わせることです。

今後の政策では、科学的データに基づいた予測モデルと、地域住民の観察データを組み合わせた「ハイブリッド管理」が鍵となります。住民通報アプリやAI警戒システムを活用し、行政・ハンター・住民が情報を共有できる体制づくりが急務です。クマの行動管理は、単なる野生動物対策ではなく「地域防災政策」の一部として位置づける必要があります。

第3の柱:出没時に迅速対応する「緊急対応・駆除体制」

クマ対策の第3の柱は、クマが人の生活圏に出没した際の「即応体制」と「安全確保」です。2023年には住宅街や学校近くへのクマ侵入が相次ぎ、人的被害が全国で200件を超えました。こうした状況を受け、政府は鳥獣保護管理法を改正し、緊急時の捕獲や駆除をより迅速に行える仕組みを整備しています。

改正後の制度では、「緊急銃猟制度」により、出没現場での迅速な射殺や捕獲が可能になりました。また、地方自治体には「クマ出没対応マニュアル」の策定が義務づけられ、通報から対応までの手順を明確化。さらに、環境省は2025年度から、地域の猟友会や警察、消防と連携した「広域出没対策チーム(仮称)」の創設を検討しています。

現場では、クマを追い払う際の安全確保も大きな課題です。出動できるハンターの高齢化が進み、夜間や都市部での発砲制限など、対応が遅れるケースも見られます。このため、一部自治体では非 lethal(非致死)手段として、麻酔弾や音響装置を活用した追い払い訓練を導入。ドローンや赤外線センサーを用いてクマの位置を特定し、住民への避難情報をリアルタイムで発信する取り組みも広がっています。

ただし、「駆除=解決」ではありません。誤射事故や地域の反発など、倫理的・社会的課題も無視できません。重要なのは、出没対応を「最後の手段」と位置づけ、予防・管理の2本柱と連動させることです。緊急時対応の精度を高めると同時に、「クマが出ない地域づくり」を進める政策全体の統合が今後の鍵となります。

3本柱を連携させた自治体の取組みと成功事例

クマ対策の3本柱を効果的に機能させるには、「予防・管理・対応」を個別に行うのではなく、地域全体で一体的に進めることが重要です。実際に、全国各地でこの3つの柱を横断的に組み合わせた成功例が報告されています。

例えば、秋田県鹿角市では「地域ぐるみクマ対策協議会」を設立し、自治体・猟友会・住民・学校が連携。予防策として電気柵や果樹伐採を行い、管理策としてGPS装着による行動モニタリングを実施。出没時には「緊急対応班」が出動する体制を構築しています。その結果、2022年度比でクマの出没件数が約40%減少しました。

また、長野県大町市では、AI画像解析とセンサーを組み合わせた「スマート警戒システム」を導入。クマがカメラに映ると即座に警報を発し、LINEなどで住民に通知する仕組みです。このような技術導入は、限られた人員でも高い効果を発揮し、地域の安全意識を高めています。

さらに、北海道札幌市では、都市型ヒグマ対策のモデル都市として「クマ出没ゼロプラン」を推進。予防・管理・対応を統合し、学校や企業と連携して「ヒグマ対策教育プログラム」を展開しています。単なる駆除ではなく、「市民が自ら学び、行動する防災型クマ対策」が進んでいます。

こうした取り組みに共通するのは、行政主導ではなく「地域主体の協働体制」です。データ共有・早期警戒・情報発信を一体化することで、クマ出没を抑制しつつ地域の安全と生態系の保全を両立しています。3本柱を横断的に連携させることこそが、持続可能なクマ対策の最適解といえるでしょう。

クマ対策の未来へ──3本柱を連携させた「共存型政策」へ

ここまで見てきたように、クマ対策の3本柱「予防」「管理」「対応」は、いずれも欠かすことのできない要素です。どれか1つが欠けても、被害防止の効果は半減します。今後は、これらを「縦割り」で進めるのではなく、地域社会全体で横断的に連携させることが最重要課題となります。

環境省は2025年度から、全国の自治体に「クマ対策統合計画」の策定を求める方針を示しています。この計画では、AI・IoT技術を活用した早期警戒、個体群データの一元管理、地域の防除ネットワーク化が柱となります。特に、住民参加型の情報共有システムの整備は、今後の政策の鍵を握るでしょう。

また、クマとの関係を「害獣との闘い」ではなく「共生への調整」と捉える発想転換も求められます。単なる駆除ではなく、生態系の維持・森林再生・地域振興を含めた「環境政策」として再構築することが重要です。クマ対策はもはや一部の山間地域だけの問題ではなく、全国的な「安全保障」課題へと広がりつつあります。

今後の方向性としては、次の3点が鍵になります:

  • ① 科学的データに基づく管理: 全国統一データベースの整備とAI予測モデルの導入。
  • ② 地域主体の実行体制: 住民・行政・専門家・企業が連携する常設協議会の設立。
  • ③ 教育と意識啓発: 学校・地域でのクマ対応訓練や、自然共生教育の普及。

クマとの「安全な距離を保つ共生」は、一朝一夕には実現できません。しかし、科学と地域の知恵を結集すれば、被害を最小限に抑え、人と自然の調和を取り戻すことができます。3本柱をつなぐ“総合的なクマ対策政策”こそ、これからの日本が目指すべき道です。