この記事でわかること

「うちは相続税なんて関係ない」と思っていませんか?実は、2015年の税制改正で基礎控除額が大幅に引き下げられた結果、相続税の課税対象者は以前の約2倍に増加しました。都市部に自宅を持つ方や、ある程度の預貯金がある方なら、相続税は決して他人事ではありません。
この記事では、相続税がかかる財産の基準から、生前贈与を活用した実践的な節税対策まで、40〜70代の方が今すぐ行動に移せる情報をわかりやすく解説します。
- 相続税の基礎控除額と課税対象になる財産の種類
- 相続税の具体的な計算方法(実際の数字つき)
- 生前贈与(年110万円の暦年贈与)の正しい活用法
- 相続時精算課税制度との違いと使い分け
- 節税に有効な特例と適用条件
- 税務署・税理士への具体的な相談先
先に結論

相続税対策のポイントは次の3点に集約されます。
- まず「基礎控除額」を確認し、課税対象になるかどうかを判断する。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。財産の総額がこれを超えなければ相続税はかかりません。
- 課税対象になる場合は、生前贈与(年間110万円以下の暦年贈与)を早めに開始する。2024年以降は贈与後7年以内の贈与が相続財産に加算されるよう改正されたため、早期着手が重要です。
- 小規模宅地等の特例や配偶者控除などの特例を最大限に活用する。要件を満たせば課税財産を大幅に圧縮できます。
相続税の申告・納税期限は被相続人(亡くなった方)が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。期限を過ぎると延滞税・加算税が発生するため、早めの対策と準備が欠かせません。
対象となる人

相続税や生前贈与対策が必要になる方は、財産の規模や家族構成によって異なります。以下の表で自分がどのケースに該当するかを確認してください。
| 対象者のタイプ | 課税される財産の目安 | 相続税発生の可能性 | 優先すべき対策 |
|---|---|---|---|
| 配偶者・子2人がいる方 | 4,800万円超(3,000万円+600万円×3人) | 高い | 生前贈与の開始・小規模宅地特例の確認 |
| 配偶者・子1人がいる方 | 4,200万円超(3,000万円+600万円×2人) | 高い | 生前贈与・配偶者控除の活用 |
| 独身・子なし(兄弟姉妹が相続人) | 3,600万円超(3,000万円+600万円×1人) | やや高い | 遺言書の作成・生前贈与の検討 |
| 都市部に自宅を持つ方 | 土地の路線価次第で超えやすい | 中〜高 | 小規模宅地等の特例の要件確認 |
| 農地・非上場株式を持つ方 | 財産評価が複雑 | ケースによる | 税理士への早期相談が必須 |
| 財産が基礎控除額以下の方 | 基礎控除額以下 | なし(原則申告不要) | 小規模宅地特例を使う場合は申告必要 |
※法定相続人の数には、相続放棄した方も含まれます。また、養子は原則1人(実子がいない場合は2人)まで法定相続人に算入できます。
制度・手続きの概要

相続税がかかる財産とは
相続税の対象になる財産(課税財産)は、プラスの財産からマイナスの財産(借入金・葬儀費用など)を差し引いた「正味の遺産額」です。主な課税財産は以下のとおりです。
- 不動産(土地・建物):路線価または固定資産税評価額で評価
- 預貯金・現金
- 有価証券(株式・投資信託・債券など)
- 生命保険金(みなし相続財産):非課税枠「500万円×法定相続人の数」を超えた部分
- 死亡退職金(みなし相続財産):同上
- ゴルフ会員権・貴金属・骨董品など
- 生前贈与加算分(死亡前7年以内の贈与財産 ※2024年1月1日以降の贈与から適用)
相続税の計算例(具体的な数字で解説)
【前提条件】被相続人の財産総額:8,000万円/法定相続人:配偶者+子2人(計3人)
- 基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 課税遺産総額:8,000万円-4,800万円=3,200万円
- 法定相続分で按分:配偶者 1/2=1,600万円、子各自 1/4=800万円ずつ
- 各自の相続税額(税率適用)
- 配偶者:1,600万円×15%-50万円=190万円
- 子1人:800万円×10%=80万円 ×2人=160万円
- 相続税の総額:190万円+160万円=350万円
- 配偶者控除適用後:配偶者が法定相続分(4,000万円)以下の財産を相続した場合、配偶者の相続税は0円(配偶者の税額軽減)
- 実際の納税額:子2人で160万円(各80万円)を分担
※税率・控除額は国税庁「相続税の速算表」に基づきます。詳細は国税庁タックスアンサー No.4155(相続税の税率)をご参照ください。
生前贈与の活用法
生前贈与とは、生きている間に財産を家族へ渡しておくことで、相続財産を減らし、相続税を抑える方法です。主な制度は以下の2つです。
①暦年贈与(年間110万円の基礎控除)
年間110万円以下の贈与であれば贈与税はかかりません。毎年コツコツと子や孫へ贈与することで、長期的に相続財産を圧縮できます。ただし、2024年1月1日以降の贈与分から、死亡前7年以内の贈与が相続財産に加算されるよう法改正されました(改正前は3年以内)。早期に開始することが重要です。詳細は国税庁タックスアンサー No.4402(贈与税がかかる場合)をご確認ください。
②相続時精算課税制度
60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度で、累計2,500万円まで贈与税が非課税(超えた分は一律20%課税)になります。ただし、贈与した財産はすべて相続時に相続財産へ合算されるため、財産が値上がりする見込みのある不動産・株式などに向いています。2024年改正で年間110万円の基礎控除が新設され、使いやすくなりました。詳細は国税庁タックスアンサー No.4103(相続時精算課税の選択)をご参照ください。
主な節税特例の適用条件
- 小規模宅地等の特例:自宅の土地(330㎡まで)を配偶者・同居親族などが相続した場合、評価額を最大80%減額。被相続人と同居していること、または持ち家なしで3年以上賃貸に住む子(家なき子特例)が条件。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が相続した財産が「法定相続分」または「1億6,000万円」のいずれか多い金額以下なら相続税は0円。ただし二次相続(配偶者が亡くなった際)での課税に注意が必要。
- 教育資金の一括贈与(1,500万円非課税):30歳未満の子・孫への教育資金に限定。金融機関経由での手続きが必要。
- 結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円非課税):18歳以上50歳未満の子・孫への贈与。2025年3月末まで延長。
- 住宅取得等資金の非課税贈与:省エネ住宅は1,000万円、それ以外は500万円まで非課税(2026年12月末まで)。
必要書類と確認先
相続税の申告に必要な書類は多岐にわたります。早めに収集を始めることが大切です。
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本・住民票
- 遺言書(公正証書遺言または自筆証書遺言)またはその写し
- 遺産分割協議書(相続人全員の実印・印鑑証明書が必要)
- 固定資産税納税通知書・名寄帳(不動産の評価用)
- 土地の登記事項証明書・公図・地積測量図
- 預貯金通帳・残高証明書(金融機関発行)
- 有価証券の残高証明書・取引履歴
- 生命保険の保険証書・支払明細書
- 死亡退職金の支払通知書
- 借入金・ローンの残高証明書
- 葬儀費用の領収書(債務控除用)
- 過去7年分の贈与契約書・振込記録(暦年贈与の記録)
書類の取得先:戸籍は市区町村役場、不動産登記は法務局、預貯金残高証明は各金融機関で取得できます。申告書の様式・記載例は国税庁「相続税の申告書の様式・記載例」からダウンロードできます。
ケース別の注意点
ケース1:「うちは関係ない」と思って何もしなかった場合
都市部の一戸建てを持つ方は要注意です。たとえば東京都内で土地50坪(約165㎡)を所有している場合、路線価によっては土地だけで5,000万円を超えることも珍しくありません。子が1人しかいない場合、基礎控除額は3,600万円のため、土地と預貯金を合わせると簡単に超過します。固定資産税納税通知書を確認し、早めに財産総額を試算しましょう。
ケース2:毎年110万円の贈与を「口頭だけ」で行っていた場合
暦年贈与は、形式が整っていないと税務署から「名義預金(実質的に被相続人の財産)」と認定されるリスクがあります。対策として、①贈与契約書を毎年作成する、②受贈者(もらう側)の口座に振り込む、③受贈者自身が通帳・印鑑を管理するの3点を必ず守ってください。同額・同時期の贈与が続くと「定期贈与(あらかじめ総額が決まっている贈与)」と見なされ、一括課税される恐れもあります。
ケース3:配偶者控除を使いすぎて二次相続が重くなった場合
一次相続(夫が死亡)で配偶者控除を最大限使い、妻がほぼすべての財産を相続したとします。その後、妻が死亡した際の二次相続では配偶者控除が使えず、子だけが相続人になるため、一次相続より税負担が大きくなるケースが多いです。一次相続の段階で、二次相続まで含めた総税額を試算し、子に一定の財産を相続させることが重要です。税理士への相談が特に有効です。
ケース4:相続時精算課税制度を選択後に撤回できなかった場合
相続時精算課税制度は、一度選択すると同じ贈与者(親など)からの贈与について取消・変更が一切できません。選択した後は毎年の110万円超の贈与が相続財産に合算されます。不動産や株式など将来値上がりが期待できる財産に活用するのが基本戦略です。現金だけを贈与する場合は、通常の暦年贈与の方が有利なケースが多いです。
今日やること3つ
- 【財産の棚卸しをする】不動産の固定資産税評価額(納税通知書で確認)、預貯金・有価証券の残高、生命保険の保険金額を書き出し、基礎控除額(3,000万円+600万円×相続人数)と比較して、相続税がかかりそうかどうかを確認する。
- 【贈与契約書を作成して今年分の暦年贈与を開始する】子や孫の口座に110万円以下を振り込み、贈与契約書(日付・贈与者・受贈者・金額を記載し双方が署名・押印)を2通作成して各自で保管する。振込の際は「贈与のため」と振込メモに記載すると記録が残り有効。
- 【税理士または最寄りの税務署に相談の予約を入れる】財産が多い・不動産がある・非上場株式があるなど複雑な場合は、相続専門の税理士への早期相談が最も確実。税務署でも無料相談を受け付けている。最寄りの税務署は国税庁「税務署の所在地・案内」から検索できる。
よくある誤解
誤解1:「毎年110万円以下の贈与なら申告しなくていいから記録も不要」
贈与税の申告は不要ですが、「贈与が実際に行われた」という証拠を残すことは非常に重要です。税務調査で「それは生前贈与ではなく名義預金だ」と指摘された場合、証拠がなければ相続財産に戻されてしまいます。贈与契約書の作成・銀行振込・受贈者による通帳管理の3点は必ず実行してください。
誤解2:「相続税の申告は専門家に任せれば期限後でも大丈夫」
相続税の申告・納税期限は死亡を知った日の翌日から10か月以内と法律で定められています。期限を過ぎると、無申告加算税(15〜20%)や延滞税(年率最大14.6%)が発生します。相続税を分割で払う「延納」や物納の申請も、期限内に行う必要があります。税理士への依頼は相続発生後できるだけ早く(できれば3か月以内)行いましょう。
誤解3:「生命保険は相続財産にならないから無制限に非課税」
生命保険の死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。ただし、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。たとえば法定相続人が3人なら1,500万円まで非課税です。この非課税枠を活用して、現金を生命保険に換えておくことは有効な節税策のひとつです。
FAQ
Q1. 相続税の基礎控除額を超えない場合、申告は必要ですか?
A. 原則として申告は不要です。ただし、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの特例を適用して相続税がゼロになる場合は、申告が必要です。特例を使って初めて控除額以下になる場合は申告を忘れずに行ってください。詳細は国税庁タックスアンサー No.4161(相続税の申告)をご確認ください。
Q2. 生前贈与をするなら、子と孫どちらに贈与する方がお得ですか?
A. 相続税の節税という観点では、孫への贈与の方が有利なケースが多いです。孫は原則として法定相続人ではないため、贈与した財産が相続財産に加算されるリスクを減らせます(ただし代襲相続人の孫や、養子にした孫は除く)。また、孫への贈与は世代を飛ばすことで相続税の課税機会を1回省略できます。ただし、孫が遺言や養子縁組によって相続人になっている場合は相続税額が2割加算されるため注意が必要です。
Q3. 相続時精算課税制度と暦年贈与、どちらが有利ですか?
A. 一概にどちらが有利とは言えませんが、判断の目安は次のとおりです。値上がりが期待できる財産(不動産・自社株など)を早めに子に渡したい場合は相続時精算課税制度が有利になりやすいです。一方、現金を毎年少額ずつ贈与して財産を圧縮したい場合は暦年贈与が基本です。2024年の改正で相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が新設されましたが、選択後の取消不可という制約があるため、専門家への相談が推奨されます。
Q4. 相続税の申告はe-Taxでできますか?
A. はい、e-Tax(国税電子申告・納税システム)から相続税の申告書を電子提出することが可能です。ただし、相続税の申告は添付書類が多く、システム操作も複雑なため、初めての方は税理士に依頼するか、税務署の相談窓口で確認することをお勧めします。マイナンバーカードとICカードリーダー(またはスマートフォン)が必要です。
Q5. 相続税を一度に払えない場合はどうすればよいですか?
A. 相続税は分割払い(延納)または不動産などの物で払う(物納)の制度があります。延納は相続税額が10万円超で金銭一括納付が困難な場合に申請でき、不動産の割合に応じて最長20年の分割払いが認められます(利子税あり)。物納は延納でも納付が困難な場合に限り認められ、不動産・国債などを物として納める制度です。いずれも申告期限(10か月以内)と同時に申請書を提出する必要があります。詳細は国税庁タックスアンサー No.4211(相続税の延納)をご参照ください。
まとめ
相続税は、適切な対策を早めに講じることで、合法的かつ大幅に税負担を軽減できます。重要なポイントを整理すると以下のとおりです。
- 基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える財産がある方は相続税の対象になる
- 生前贈与(暦年贈与・相続時精算課税)を早期に開始することが最も基本的な節税策
- 2024年改正で贈与の相続財産加算期間が7年に延長されたため、対策の早期着手が一層重要
- 小規模宅地等の特例・配偶者控除などの特例は要件を満たせば税額を大幅に圧縮できる
- 特例を適用してゼロになる場合でも、申告期限(死亡知得日の翌日から10か月)は必ず守る
- 複雑なケースは相続専門の税理士への相談が最も確実かつ効果的
相続税対策は「いつかやろう」と思っているうちに時間が過ぎてしまうことが最大のリスクです。今日のうちに財産の棚卸しを始め、必要であれば専門家への相談を予約しましょう。
公式情報・相談先
- 国税庁(相続税・贈与税の総合情報):https://www.nta.go.jp/
- 国税庁タックスアンサー「相続税」一覧:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/sozoku.htm
- 国税庁タックスアンサー「贈与税」一覧:

コメントを残す