第1章:「なんで米の値段が下がらないの?」という素朴な疑問からすべては始まる
最近、「備蓄米が放出された」というニュースを見て、「ああ、これでやっと米の値段が下がるのか」と思った人、多いのではないでしょうか?
でも、フタを開けてみたら――あれ? 値段、下がってないじゃん。むしろ上がってる?
こういうとき、Twitterやニュースのコメント欄は騒がしくなります。
「政府のやり方が悪い」「市場が機能していない」「陰謀だ!」なんて声も見かけますが、ちょっと待って。それ、感情ではなく“経済学”でちゃんと説明できるかもしれません。
この話、いわば「文系にこそ刺さる経済のリアル」です。
「経済って苦手…」な人にこそ読んでほしい
経済学って、なんとなく取っつきにくい。
数式やグラフが出てくるし、「あれ、需要ってどっちだっけ?」と混乱することもある。
でも、今回の「米の値段が下がらない」という話は、むしろ経済学の教科書に載っているようなド・ストレートな現象。
逆に言えば、ちゃんと仕組みを知っていれば、周囲がパニックになっていても「なるほど、そういうことか」と冷静に判断できる。
言い換えれば、“価格がなぜこう動くか”が分かれば、経済のニュースが10倍面白くなるんです。
「感覚」ではなく「仕組み」で考えてみる
私たちがニュースで得る情報は、だいたい「結果」の話です。
「価格が上がった」「放出された」「円安だ」といった出来事が並ぶだけで、“なぜそうなったか”の仕組みは見えてきません。
今回の備蓄米の放出もそう。
ニュースでは「21万トンの放出」と言うけれど、その数字がどんな意味を持ち、どんな影響を与えるのかまでは説明してくれない。
でも実は、その答えは“中学校で習った”あの図にあるんです。そう、「需要と供給」のグラフ。
価格は、需要と供給のバランスで決まる——。
聞いたことありますよね? でも、その言葉だけでは今起きている現象を説明しきれない。
重要なのは、「ちょっとしたバランスのズレ」が、どう価格に影響するのかを“数字”で見ること。
米の価格は「空気」で動いてるんじゃない
ここで大事なのは、「米の値段は気まぐれではない」という事実。
たとえば、農水省のデータには2010年からの「供給量」「需要量」「価格」がしっかり記録されています。
これをちょっとExcelで整理するだけで、意外なことがわかるんです。
米の価格変動は、「なんとなく」ではなく、超過需要率という経済学的な指標と密接に関係している。
しかもその相関係数は0.86という、めちゃくちゃ高い数値。これは偶然では説明できません。
つまり、今回の価格が「思ったほど下がらない」理由も、この数字の中にきちんと“答え”があるんです。
文系だって、経済は読める
この記事では、なるべく数式を使わずに、でもちゃんと経済の“骨格”に触れながら、米価の動きを読み解いていきます。
「こんなにシンプルだったの?」
「なんでこれ、ニュースで教えてくれないの?」
そう思ってもらえたら、この記事の目的は達成です。
次章からは、価格の正体にもっと深く踏み込んでいきましょう。
第2章:価格は“超過需要”で動く——経済学が教える本当の仕組み
「需要と供給で価格が決まる」——経済の授業で一度は聞いたこのフレーズ、なんとなくは覚えてるけど、具体的にどういう意味かピンとこない人も多いのではないでしょうか?
この章では、「価格がどう動くのか?」を理解するために、“超過需要”というキーワードを中心に解説していきます。
数字や計算がちょこっと出てきますが、数式アレルギーの方も大丈夫。シンプルに、そして感覚的にわかるように噛み砕いてお届けします。
価格は「バランスの崩れ」で動く
まず、基本の話から。
- 需要:欲しい人がどれくらいいるか
- 供給:売りたい量、実際に市場に出てくる量
この2つが同じであれば、理論上は「安定した価格」が保たれます。
でも現実の市場では、このバランスがちょっと崩れるだけで、価格が敏感に反応します。
たとえば、需要が105に対して供給が100だったら、差はたった5。でもその「5の差」が価格を押し上げる圧力になる。
逆に、供給が需要を上回ると、価格は下がります。
超過需要って何?
ここで出てくるのが、今回のキーワード**「超過需要」**です。
これは単純に言うと、
超過需要 = 需要 − 供給
です。文字通り、需要が供給を“超過”している状態。
でもこれだけだと、「どのくらい多いのか」が分かりにくい。たとえば「10トンの超過需要」と聞いても、それが多いのか少ないのかピンとこない。
だから、超過需要を供給で割って比率にするのが一般的です。これが、
超過需要率 =(需要 − 供給)÷ 供給
という式。
この比率が高いほど、「供給に対して需要が強い=価格が上がりやすい」状態を意味します。
超過需要率は“価格の温度計”
この超過需要率、実は価格を予測する最強の指標になります。
米の市場でも、これを毎年出してみると、「あれ?この年はやたら価格が上がってるな…」という年には、超過需要率もピタッと高くなっている。逆に、価格が横ばいの年はこの値も低め。
つまり、超過需要率は“価格の温度計”みたいなものなんです。
そして面白いのは、この値と価格上昇率の相関係数が0.86と非常に高いこと。
これは「ほぼ比例してる」と言ってもいいくらいの関係性で、経済学的にも「これはガチだな」と頷けるレベルです。
価格は“感情”ではなく“計算”で決まる
ここで大切なのは、「価格が高い=誰かがボッタくっている」といった感情論ではなく、
「どのくらい足りてないか」という市場の状態が、そのまま価格に反映されるということ。
つまり、価格というのは需給バランスの通知表のようなもの。
需要と供給のズレを見れば、感覚ではなくロジックで価格が動く理由が見えてくる。
これを知っているだけで、世の中のニュースの見方がまるで変わってきます。
第2章:価格は“超過需要”で動く——経済学が教える本当の仕組み
「需要と供給で価格が決まる」——経済の授業で一度は聞いたこのフレーズ、なんとなくは覚えてるけど、具体的にどういう意味かピンとこない人も多いのではないでしょうか?
この章では、「価格がどう動くのか?」を理解するために、“超過需要”というキーワードを中心に解説していきます。
数字や計算がちょこっと出てきますが、数式アレルギーの方も大丈夫。シンプルに、そして感覚的にわかるように噛み砕いてお届けします。
価格は「バランスの崩れ」で動く
まず、基本の話から。
- 需要:欲しい人がどれくらいいるか
- 供給:売りたい量、実際に市場に出てくる量
この2つが同じであれば、理論上は「安定した価格」が保たれます。
でも現実の市場では、このバランスがちょっと崩れるだけで、価格が敏感に反応します。
たとえば、需要が105に対して供給が100だったら、差はたった5。でもその「5の差」が価格を押し上げる圧力になる。
逆に、供給が需要を上回ると、価格は下がります。
超過需要って何?
ここで出てくるのが、今回のキーワード**「超過需要」**です。
これは単純に言うと、
超過需要 = 需要 − 供給
です。文字通り、需要が供給を“超過”している状態。
でもこれだけだと、「どのくらい多いのか」が分かりにくい。たとえば「10トンの超過需要」と聞いても、それが多いのか少ないのかピンとこない。
だから、超過需要を供給で割って比率にするのが一般的です。これが、
超過需要率 =(需要 − 供給)÷ 供給
という式。
この比率が高いほど、「供給に対して需要が強い=価格が上がりやすい」状態を意味します。
超過需要率は“価格の温度計”
この超過需要率、実は価格を予測する最強の指標になります。
米の市場でも、これを毎年出してみると、「あれ?この年はやたら価格が上がってるな…」という年には、超過需要率もピタッと高くなっている。逆に、価格が横ばいの年はこの値も低め。
つまり、超過需要率は“価格の温度計”みたいなものなんです。
そして面白いのは、この値と価格上昇率の相関係数が0.86と非常に高いこと。
これは「ほぼ比例してる」と言ってもいいくらいの関係性で、経済学的にも「これはガチだな」と頷けるレベルです。
価格は“感情”ではなく“計算”で決まる
ここで大切なのは、「価格が高い=誰かがボッタくっている」といった感情論ではなく、
「どのくらい足りてないか」という市場の状態が、そのまま価格に反映されるということ。
つまり、価格というのは需給バランスの通知表のようなもの。
需要と供給のズレを見れば、感覚ではなくロジックで価格が動く理由が見えてくる。
これを知っているだけで、世の中のニュースの見方がまるで変わってきます。
本章のまとめ
- 価格は「需要と供給」のズレ(超過需要)で動く
- 超過需要率 =(需要 − 供給)÷ 供給
- 米の価格変動は、この超過需要率と相関係数0.86でつながっている
- 価格は“空気”ではなく、“仕組み”で動いている
第3章:農水省のデータを読み解く——誰でもできる米価分析のレシピ
「経済分析」なんて聞くと、専門家やアナリストじゃないとできないイメージがあるかもしれません。でも実際は、公的データとExcelさえあれば、誰でも価格の動きを読み解くことができます。
ここでは、実際に農水省の資料を使って、「超過需要率」と「価格上昇率」の関係を可視化する方法を紹介します。難しそうに聞こえるかもしれませんが、やることは中学の数学レベル。計算が苦手な人でも問題なしです。
使うのはこの3つのデータだけ
農水省が毎年出している「米の需給と価格の状況」の中に、分析に必要なデータがすべてそろっています。必要なのは以下の3つだけ:
- 年ごとの需要量(どれだけ食べられたか)
- 年ごとの供給量(どれだけ出回ったか)
- 年ごとの平均価格(60kgあたりの価格)
これらのデータは、農水省の「米の需給関係資料」(たとえば令和6年3月24日発表分)にすべて載っています。PDFでも見られますが、Excel版をダウンロードして使うのが便利です。
ステップ1:超過需要率を計算してみよう
まずは、超過需要率を求めましょう。やり方は簡単です。
超過需要率(%) =(需要 − 供給)÷ 供給 × 100
たとえば、ある年に
- 需要が850万トン
- 供給が800万トンだったとすると、
超過需要率 =(850 − 800)÷ 800 × 100 = 6.25%
となります。
この計算を、たとえば2010年から2024年までの15年分、ずらーっとExcelでやってみる。それだけで、価格にどんな影響があったかを“数字で見る準備”が整います。
ステップ2:価格上昇率も出してみる
次にやるのが価格の上昇率です。これはもっと簡単。
価格上昇率(%) =(当年価格 − 前年価格)÷ 前年価格 × 100
たとえば前年が12,000円で今年が13,200円だったら、
(13,200 − 12,000)÷ 12,000 × 100 = 10%
これも年ごとに並べて、超過需要率と一緒に一覧にします。
ステップ3:グラフにしてみると見えるもの
次に、Excelで散布図を作成。横軸に「超過需要率」、縦軸に「価格上昇率」をプロットします。すると出てくるのが、“あの点がいっぱい打たれたグラフ”です。
この図の面白いところは、点がほぼ右上がりの直線に並ぶこと。
「超過需要率が高い年ほど、価格が上がっている」
というのが、視覚的に一発でわかるのです。
ステップ4:相関係数を出してみよう
ここまで来たら、ついでにExcelで相関係数を出してみましょう。
使う関数はこれだけ:
=CORREL(範囲1, 範囲2)
「範囲1」には超過需要率の列、「範囲2」には価格上昇率の列を指定するだけで、Excelが自動で出してくれます。
実際に出た値が0.86。これはかなり高い相関です。
- 相関係数が1に近い → ほぼ比例関係
- 0に近い → 無関係
- −1に近い → 反比例関係
つまり、「米の価格と超過需要率は、かなりしっかり結びついている」という事実が見えてくるわけです。
“数字が語る”と、見え方が変わる
この分析の面白さは、自分で数字を扱うと、ニュースがまったく違って見えてくること。
「備蓄米が21万トン放出された」と聞いても、
「じゃあ超過需要率は何%減る?」「価格は何円下がる可能性がある?」
と、感情じゃなく数字ベースで考えられるようになる。
こうなると、ただ情報を受け取るだけじゃなく、「自分の頭で読む」ことができるんです。
本章のまとめ
- 農水省の3つの数字(需要・供給・価格)だけで分析できる
- Excelで超過需要率・価格上昇率を計算 → 散布図作成
- 相関係数0.86という、極めて強い関係性が見えてくる
- 「数字で見る力」があれば、経済ニュースは武器になる
第4章:相関係数0.86の衝撃——超過需要率と価格上昇率の美しすぎる関係
ここまで読んできて、あなたはもう「超過需要率って、価格の動きに関係ありそうだな」と感じているかもしれません。
でも、関係“ありそう”じゃなくて、実際にガッツリあるんです。
その証拠が、前章で計算した相関係数0.86という数字。
この数字の意味、そしてそこから見えてくる“価格の未来予測”について、ちょっと本気で掘り下げていきましょう。
相関係数0.86とはどういうことか?
まずは基本から。
相関係数というのは、2つのデータがどれくらい関係し合っているかを示す数値です。
ざっくり言えば、
- 1に近い → ほぼ同じように動く(正の強い関係)
- 0に近い → 無関係
- −1に近い → 真逆に動く(負の強い関係)
この数値が0.86というのは、めちゃくちゃ高い。たとえるなら、「雨が降ると傘の売上が伸びる」くらいの分かりやすい相関。いや、それ以上かもしれません。
つまり、超過需要率が高くなると、米の価格もほぼ確実に上がるということを、この数値が証明しているんです。
グラフにすると一目瞭然
実際に、Excelの散布図で超過需要率と価格上昇率をプロットしてみると、点が見事に右肩上がりの直線に近づいていくのがわかります。
しかも、そのばらつきが少ない。
ちょっと価格が高めだった年もあるけど、それは「いつものズレの範囲内」として説明できる程度。
この「ズレがズレに見えない」って、経済分析ではめちゃくちゃ重要なことなんです。
なぜなら、予測がしやすくなるから。
たとえば、
「超過需要率が3%下がったら、価格はどれくらい下がるの?」
という問いにも、過去のデータからかなり精度高く答えられるようになります。
実際に価格を予測してみると…
では実際に、この関係を使って予測してみましょう。
今回、備蓄米が21万トン放出されることで、供給が約700万トンからちょい増となり、超過需要率は3%程度減少すると言われています。
これに従って価格を試算すると、だいたい60kgあたり4,000円程度下がるという結果になります。
ここでのポイントは、「感覚じゃなく数字で言える」こと。
「4,000円くらい安くなる」という予測が、ちゃんとデータから導けるって、ものすごい安心感がありますよね。
でも…それ、本当に下がるのか?
ただし、ここで注意点があります。
経済って、理論どおりに動くこともあれば、動かないこともある。
たとえば、今回の備蓄米放出は「短期的な供給増」でしかない。
もし政府がこのあと、また備蓄米を買い戻す(=供給をまた減らす)ようなことをすれば、
この効果は「行ってこい」で消えてしまいます。
つまり、理論上は「下がるはず」だけど、政策の動き次第でチャラになる可能性もある。
これを無視して「4,000円下がるって言ってたのに!」と怒るのは、ちょっと早計なんです。
傾向を読む力が、武器になる
この章のポイントはただひとつ。
価格は超過需要率とかなりの精度で連動しているということ。
でもそれを、ただの“過去の結果”として受け取るだけではもったいない。
この関係性を知っていれば、ニュースの先を読んで、「たぶん次はこうなるな」と予測できる。
つまり、“数字で考える”ことが、あなた自身の判断力になるんです。
本章のまとめ
- 超過需要率と価格上昇率は、相関係数0.86という強い関係性を持つ
- この関係を使えば、「価格がどれだけ動くか」を予測できる
- 備蓄米放出による価格下落は理論的には約4,000円
- ただし「買い戻し」などの政策判断で、理論どおりには動かない可能性もある
- 大事なのは、「傾向を読める力」が価格の動きを理解するカギになるということ
第5章:「一時的な放出→また買い戻し」のトリックが価格に与える影響
「政府が備蓄米を放出したから、これで価格も下がるはずだ」
そう思ったのに、思ったほど下がらない。むしろ、1年後にはまた価格が上がってるかもしれない——。
これ、一見すると「なぜ?」と首をかしげる話ですが、実はちゃんとカラクリがあるんです。
そのカラクリの正体が、この章のテーマ。
それはつまり、「一時的な放出」と「その後の買い戻し」が表裏一体であるということ。
短期的に価格を下げる効果があったとしても、それを帳消しにする動きが、すでにセットになっているのです。
備蓄米の放出=供給の一時的な増加
まず前提として、備蓄米の放出は市場にとって「臨時ボーナス」みたいなもの。
本来流通していなかったお米が市場に出てくるわけですから、供給が一時的に増えます。
供給が増えれば、需給のバランスが崩れ、価格は下がりやすくなる——。
ここまでは前章で説明した通りですね。
では、なぜその効果が長続きしないのか?
なぜ「価格が下がらない」のか?:買い戻しの罠
答えはシンプルです。
放出された備蓄米は、後でまた政府が買い戻すことが決まっているから。
そう、「売って終わり」じゃないんです。
政府は基本的に、「出したらまた戻す」のが前提。備蓄の水準を維持する必要があるため、数ヶ月〜1年以内に、放出した分とほぼ同じ量を再び市場から買い上げる動きが行われます。
つまり…
- 放出で一時的に供給が増える → 価格が下がる
- 買い戻しで供給が減る → また価格が上がる
この“行ってこい”のループにより、価格の下降圧力は一時的な幻に終わる可能性が高いのです。
市場は“未来”を見ている
そして、ここが重要なポイント。
市場というのは、「今」ではなく「これから」を見て動きます。
つまり、参加者の多くはこう思っているわけです:
「あー、どうせ出してもまたすぐ買い戻すんでしょ」
「だったら、そんなに値段下がらないな」
この“期待”が先回りして価格に織り込まれてしまう。
だから、理論上は下がるはずの価格も、実際には思ったほど動かない。
さらに言えば、再び買い戻されることで市場の在庫量は元に戻るどころか、タイミングによっては供給が過剰に減る局面もある。これが、後ほど触れる「原端の罠」につながっていきます。
米市場は“マインド”も価格に織り込む
農作物市場、とくに米のように天候や政策に左右されやすい市場では、数字だけでなく、**“先読みマインド”**が価格形成に大きく影響します。
たとえば今回のように、
「1年以内に買い戻される」
「原端(減産政策)は続く」
「将来の供給は減る一方」
という見通しが強くなれば、たとえ今供給が増えていても、価格はそれほど下がらない。
むしろ、「下がった今が買いどき」と考える買いが入り、価格を押し戻す圧力すら生まれます。
つまり、価格は「今の供給量」よりも、“これからの需給バランス”に強く反応するのです。
放出だけでは意味がない理由
ここで改めて結論を整理しましょう。
- 放出だけでは、価格を下げるには不十分
- なぜなら、その後の買い戻しがセットになっている
- 結果的に「供給が増えた」はずなのに、中長期ではむしろ減っている構造
つまり、一見“価格対策”に見える政策も、構造的には価格を下げる力を持っていないことが多いのです。
これは「悪意がある」という話ではなく、農政のしくみ上やむを得ない部分でもあります。
でも、それを理解せずに表面だけを見て、「備蓄米出したのに!全然下がらないじゃん!」と怒ってしまうのは、ちょっともったいない。
本章のまとめ
- 備蓄米の放出は、一時的に供給を増やすが、買い戻しで効果が打ち消される
- 市場は「未来」を織り込むため、一時的な供給増では価格は動きにくい
- 表面的な“供給増”に惑わされず、構造的なトレンドを見ることが重要
第6章:原端の罠——なぜ供給はじわじわ減り続けるのか?
「米の価格はなぜ上がり続けるのか?」
その問いに対して、短期的には「備蓄米放出が足りない」とか「需要が強いから」といった声が上がります。
しかし、もっと根本的なところに目を向けると、ある長期的なトレンドが静かに進行しています。
それが**「原端(減反)政策」、すなわち“意図的な供給削減”**です。
この章では、米の価格上昇を支える“もうひとつの見えない力”について掘り下げていきます。
「価格はなぜ戻らないのか?」という疑問の、真の答えがここにあります。
原端政策とは?
まず、「原端」ってなに? という方のために簡単に説明します。
**原端=「米の作付面積を意図的に減らす政策」**です。
かつて日本では米が余りすぎて価格が暴落したことがありました。
その反省から、農家に対して「作らないでくれたら補助金を出しますよ」という形で、供給をコントロールする仕組みがつくられたわけです。
こうして長年、作付面積を減らし、米の価格を安定的に保ってきたのが“原端”です。
ゆっくり、でも確実に減り続ける供給量
では実際に、供給量はどう推移しているのでしょうか?
農水省のデータを見れば一目瞭然。
毎年のように少しずつ減っているのがわかります。
それも“自然減”ではなく、明確に“政策的にコントロールされた減少”です。
例えば、仮に年間10万トンずつ減っているとすれば、
5年で50万トン、10年で100万トンも供給が減る計算になります。
これはちょっとやそっとの「備蓄米放出」では埋められない量です。
備蓄放出より、原端の方がインパクトが大きい
ここで冷静に比較してみましょう。
- 備蓄米の放出:年に20〜30万トン程度(たまに実施)
- 原端による供給減:年に10万トン規模(毎年じわじわ)
つまり、放出は一時的・不定期だけど、原端は確実に進行している定常的な供給減。
どちらが価格に強い影響を与えるかは明らかです。
備蓄米を出しても、原端によって翌年にはまた供給が減る。
しかも、放出した米はどうせ買い戻される。
こうした構造を見ていると、価格は一時的に下がっても、また確実に戻ってくるという“地ならし”がされているようなものです。
「下がっても、すぐ戻る」=市場の学習効果
さらに興味深いのが、市場参加者がこの流れを“学習”していること。
つまり、経験則として、
「どうせ供給はまた減る」
「価格はまた戻る」
という未来予測が共有されている。
この“共有された未来像”が価格を支えているのです。
だから、「いったん価格が下がっても、それが恒久的になるとは思われない」。
その結果、価格の下支えが異様に強くなっているのが今の米市場の現実です。
「もう米作りません」な農家も増えている
そして、もうひとつ静かに進行している事実があります。
それは、高齢化や後継者不足により、そもそも米作りを辞める農家が増えているということ。
原端がなくても、構造的な供給減は止まらない。
農業人口が減れば、放っておいても生産量は減ります。
これが、原端と合わせ技で「ダブルの供給減」を引き起こしているのです。
つまり、今後も価格が“底割れしにくい”構造が続く可能性は高いのです。
本章のまとめ
- 原端(減反)は政策的に供給を減らす仕組み
- 年単位でじわじわと、だが確実に供給量は減っている
- 備蓄米の放出より、原端の方が影響力が大きい
- 市場は「また供給が減る」と学習しており、価格が戻りやすい構造
- 高齢化と離農も含め、“米が減る流れ”は止まらない
第7章:“線に乗ってない1点”に惑わされるな——傾向を読める人が得をする
「今年の米価、めっちゃ高いじゃん!」
「なんでこんなに上がってんの? 政府は何してんの?」
「過去一番に高いってニュースで言ってたけど、さすがに異常でしょ」
——このような“1点だけ”を見て判断する声、SNSやニュースコメント欄でよく見かけませんか?
気持ちはわかります。突然の価格上昇に驚き、イライラするのは当然です。
でも、ここまでの章で見てきたように、価格というのは1年や1点のデータで判断できるような単純なものではないんです。
この章では、「1点を見て騒ぐ人」と「傾向を読んで理解する人」との間にある“情報格差”と、それがもたらす行動の差について考えてみます。
「今だけを見る」=統計を理解していないということ
まず前提として、統計の基本は「全体を見て傾向を読む」ことです。
それに対して「1つの点だけを見て判断する」というのは、統計的には最も危ういアプローチ。
たとえば、2010年から2024年までの15年間の価格と超過需要率を散布図で打ってみると、きれいな右上がりの傾向が見えてくる。
この線の上にぴったり乗っている年もあれば、少し上下に外れた年もある。
**でも、その“外れ”も、ぜんぶ「想定内のばらつき」**なんです。
つまり、「今年の価格は高すぎる!」と感じても、それは
過去の傾向の中で見れば、全然不自然じゃない
ということが多いんです。
「飛び抜けて見える」のは、見方の問題
今年の価格が他の年よりも高く見えるのは、単純に「今」を基準にしているから。
でも、グラフ全体で見れば、その1点も右上がりの傾向の延長線上にちゃんと乗っている。
このように、“線を描ける人”と“点しか見ない人”では、同じデータの見え方がまるで違うんです。
- 点しか見ない人:「今だけ高い。異常だ」
- 線で見る人:「需要に対して供給が少ない年だから、妥当な範囲」
この差が、そのまま“理解度”の差であり、ひいては判断の正確さの差になります。
新聞もSNSも「煽りやすい1点」を取り上げがち
残念ながら、マスメディアもSNSも“1点で煽る”のが大好きです。
- 「史上最高値!」
- 「ついに米価が1万5千円突破!」
- 「過去10年で最悪の需給バランス!」
こういう見出しはインパクトが強く、拡散されやすい。でも裏を返せば、**“傾向”という本質から目を逸らす”**報じ方でもあります。
本来は、「15年のデータを通して見ると、今年はそこまで異常ではない」と伝えるべきなのに、
「今年だけ飛び抜けてる」という印象を持たせることで、誤解と不安が広がってしまう。
「傾向を読める人」が最後に得をする
これまでの話を通して伝えたいのはただ一つ。
傾向を読める人こそ、最終的に一番冷静に・的確に行動できるということです。
たとえば、
- 「今ちょっと高いけど、供給が減ってるから納得できる」
- 「備蓄米放出は一時的だし、来年はまた上がるかも」
- 「今後も原端が続くなら、価格はこの水準が新たな“普通”になるかも」
こう考えられる人は、価格に一喜一憂しない。
むしろ、市場全体の流れを見て、長期的な選択ができるようになるのです。
本章のまとめ
- 「1点だけを見て判断する」のは、誤解の元
- 過去15年の傾向を見ると、今年の価格は“異常”ではない
- メディアやSNSは“点で煽る”傾向がある
- 傾向を読める人は、冷静に市場を判断し、損をしにくい
- 経済を“線で見る力”が、情報を武器に変える
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