結論:法務省が、インターネット上の中傷を含む精神的損害の賠償のあり方を検討する有識者研究会を設ける方針だと、9月29日に報じられました。背景には、発信者を特定する手続や訴訟に費用がかかる一方、裁判で認められる慰謝料が低く、被害の回復につながりにくいという指摘があります。
ただし、現時点で慰謝料の最低額や相場が一律に引き上げられたわけではありません。法務省が2026年4月に公表した裁判例調査は、賠償額の実情と考慮要素を整理した資料です。今後、研究会で論点を整理し、法制審議会への諮問に進むかどうかが次の段階になります。
確認日時:2026年9月29日15時03分(日本時間)。調査窓:直近24時間・7日・30日。Yahoo! JAPANのコメント数は関心シグナルとしてのみ使用し、世論全体や制度変更の根拠にはしていません。
9月29日に報じられたのは「改正」ではなく検討の開始
今回の報道で示されたのは、法務省が有識者研究会を設置し、精神的損害の賠償や算定方法を検討する方向だということです。研究会が具体的な制度案を決めたわけでも、裁判所が今後の慰謝料を同じ水準で認めると決まったわけでもありません。
法務省が実際に法改正を進める場合も、論点整理、法制審議会への諮問、部会での審議、答申、法案提出、国会審議という段階を踏みます。研究会の設置方針だけから、施行時期や賠償額を予測することはできません。
法務省の公式調査は何を調べたのか
法務省民事局の公式ページによると、調査はインターネット上の名誉権または名誉感情の侵害を認め、損害賠償請求を認容した公開裁判例を対象に、賠償額の実情を整理したものです。2022・2023年の事例161件と、2012・2013年の比較対象42件を合わせた203件が分析対象とされています。
これは、被害申告の件数や全国民の体感を示す調査ではありません。公開された判決文をもとにした分析なので、和解で終わった事案、提訴されなかった事案、公開されていない事案は同じ形では反映されません。数字は「裁判例から見える傾向」として扱う必要があります。
ネット上の慰謝料は本当に低いのか
法務省の調査報告書を紹介した朝日新聞社の解説では、主にインターネット上の媒体による事案で、認められた慰謝料が30万円未満の割合は46.6%、中央値は30万円と整理されています。新聞や雑誌などインターネット以外の媒体では、30万円未満の割合は29.4%でした。
ただし、「ネット投稿なら30万円」「今後は一律に増額」という意味ではありません。媒体だけでなく、投稿の内容、拡散の範囲、回数、被害者に生じた実害、投稿者の対応などが裁判ごとに評価されます。
金額を左右するのは投稿の回数・拡散・実害
調査報告書では、投稿が不特定多数に届いたか、内容がどれほど悪質・具体的か、繰り返し投稿されたか、精神疾患や仕事への支障など実害が出たかが、賠償額を押し上げる方向の要素として整理されています。SNSでは、フォロワー数や再投稿数が拡散可能性を示す材料になる場合もあります。
反対に、抽象的な罵倒にとどまる、閲覧者が限られる、速やかに削除・謝罪するなどの事情は、金額を抑える方向に働く場合があります。いずれも裁判所が個別事案で評価する要素であり、投稿者の属性だけで結果が決まるわけではありません。
「名誉権」と「名誉感情」は同じではない
名誉権侵害は、犯罪や不正などの具体的な事実を示して社会的評価を下げる類型です。名誉感情の侵害は、事実の摘示がなくても、社会通念上許される限度を超えて自尊心を傷つける類型です。日常語の「悪口」だけでは、どちらに当たるかは判断できません。
朝日新聞社の解説が紹介する調査結果では、名誉権侵害だけが認められた事案の平均慰謝料額は74.7万円、名誉感情侵害だけの事案は21.6万円でした。平均値は個別の目安にすぎず、請求すれば同額が認められるという意味ではありません。
被害者が今できることは証拠と手続の整理
法務省は、インターネット上の人権侵害について、削除依頼や法務局への相談などの情報を案内しています。被害を受けた場合は、投稿のURL、投稿日時、アカウント名、表示内容、拡散状況を保存し、削除前に記録を確保することが重要です。
発信者を特定する場合は、通信記録が保存される期間や手続の選択が関係するため、早めに弁護士などへ相談します。慰謝料請求では、投稿そのものだけでなく、仕事への影響、医療機関の記録、相談・開示に要した費用など、損害との関係を示す資料も確認対象になります。
投稿者側も「意見」と「事実の摘示」を分けて考える
批判や論評が直ちに違法になるわけではありません。一方で、根拠のない具体的事実を断定したり、相手を侮辱する投稿を繰り返したりすると、名誉権や名誉感情の侵害が問題になる可能性があります。投稿の削除や謝罪が有利に評価される場合があっても、すでに生じた損害が当然に消えるわけではありません。
記事や判決を引用する場合も、元資料の範囲を超えて断定しないことが必要です。法務省の調査結果を「ネット中傷なら必ず高額賠償」と言い換えることは、公式資料の趣旨から外れます。
「賠償額の見直し」で今すぐ変わらないこと
9月29日時点で、確認できないのは少なくとも三つあります。第一に、慰謝料の一律の最低額や算定表が導入されるか。第二に、研究会や法制審議会の開催時期、法案提出・施行時期。第三に、個別の投稿について裁判所がどの金額を認めるかです。
研究会の検討対象が精神的損害の算定だけになるのか、発信者情報開示費用、訴訟費用、被害回復の仕組みまで含むのかも、今後の資料を確認する必要があります。報道に書かれた「法改正を諮問したい考え」は、法務省が実際に諮問したという意味ではありません。
まとめ:今は「制度変更」ではなく検討の入口
今回のニュースは、ネット中傷の被害回復をめぐる問題が、裁判例の整理から制度設計の議論へ進む可能性を示したものです。法務省の公式調査は、低額になりやすい事例や、拡散性・反復性・実害などの考慮要素を整理しましたが、これだけで相場や判決が変わるわけではありません。
被害を受けた人は証拠と損害を早めに整理し、投稿する人は根拠と表現、拡散範囲を確認する。制度面では、研究会の開催要領、法制審議会への諮問、法案の有無を順番に確認する。この三つを分けて追うのが、現時点でできる最も確かな読み方です。
出典・確認時点
- 法務省「不法行為に基づく損害賠償請求に関する国内外の制度等に関する調査・研究について」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00373.html
- 法務省「インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額等に関する調査報告書」:https://www.moj.go.jp/content/001461472.pdf
- 法務省「インターネット上の人権侵害をなくしましょう」:https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken88
- 朝日新聞社・ツギノジダイ「インターネット上の名誉権侵害と損害賠償 法務省の報告書が示す慰謝料額」:https://smbiz.asahi.com/article/16541947
- Yahoo!ニュース「ネット中傷 賠償額の見直しを検討」:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6596938(2026年9月29日、コメント1,490件。関心シグナルと報道要旨の確認用で、記事本文の転載・要約には使用していません)
- Yahoo!ニュース掲載の毎日新聞「精神的損害の賠償見直し検討 ネット中傷に『低額』批判 法務省」:https://news.yahoo.co.jp/articles/48a220847e658173dbb3da7ee1f716d628ce198a
- Yahoo!ニュース掲載の朝日新聞「裁判の慰謝料低すぎる? 損害賠償のあり方、法務省が研究会で議論へ」:https://news.yahoo.co.jp/articles/7d02a373a1bd244368d3e6900bf00cc4cf599519
確認時点:2026年9月29日15時03分(日本時間)。研究会の正式な開催要領、構成員、法制審議会への諮問、法案・施行時期は新しい公式発表で更新される可能性があります。
