2024年11月5日、アメリカ大統領選挙の結果が明らかになり、共和党のドナルド・トランプ氏が当選確実となりました。トランプ氏の返り咲きは、アメリカ国内だけでなく、世界情勢にも大きな影響を与えると予想されています。 今回の選挙では、実業家のイーロン・マスク氏がトランプ氏を強力に支持し、少なくとも1億1900万ドル、日本円にして約183億円もの巨額の献金を行ったことが明らかになっています。
マスク氏の献金の目的は、自身の企業群を規制から守り、政府からの支援を増やすことだったと見られています。 マスク氏が率いる企業には、電気自動車メーカーのテスラ、宇宙開発企業のスペースX、脳とコンピューターをつなぐ技術を開発するニューラリンクなどがあります。
これらの企業は、いずれも政府の規制や補助金、政策に大きく影響を受ける業界で活動しています。元スペースX幹部の証言によると、マスク氏は規制を自身の事業やイノベーションの妨げだと考えており、トランプ政権を利用して規制撤廃を進めたいと考えているようです。
マスク氏は7月13日にトランプ氏への支持を正式に表明し、その後の選挙戦でもたびたび応援演説を行いました。 選挙当日の夜には、フロリダ州にあるトランプ氏の別荘で共に勝利を祝ったとされています。
トランプ氏は、政府効率化を推進する組織のトップにマスク氏を起用すると約束しており、マスク氏の影響力がさらに強まる可能性があります。かつてマスク氏は、環境保護や宇宙開発の先駆者としてのイメージが強かったのですが、最近では左派イデオロギーに反発する形で、リバタリアニズム(自由至上主義)を掲げるシリコンバレーの富豪たちの代表格となっています。
マスク氏の政治への関与が強まるにつれ、彼の「企業帝国」はますます強大になっています。その姿は、19世紀後半の「金ぴか時代」にたとえられることもあります。
この時代、J・P・モルガンやジョン・D・ロックフェラーといった有力資本家たちが、政府の政策を自由に操る力を持っていました。マスク氏の支持者たちは、彼の影響力が強まることを歓迎しています。
彼らは、政府の規制がハイテク企業の発展を妨げていると考えており、規制撤廃によってイノベーションが加速すると信じています。例えば、スペースXに投資しているベンチャーキャピタリストのシャービン・ピシュバー氏は、規制がなくなればスペースXの火星到達計画が加速すると主張しています。マスク氏が政治的な存在感を増した背景には、バイデン政権との確執がありました。
2021年8月、ホワイトハウスが開催した電気自動車サミットにテスラが招待されなかったことが、マスク氏のトランプ陣営への接近を加速させたとされています。テスラの今後は、次期政権が電気自動車や自動運転車に関する政策・規制、補助金をどのように扱うかにかかっています。
これまで民主党政権はテスラに有利な政策を進めてきましたが、共和党は伝統的に電気自動車に否定的でした。しかし、マスク氏の貢献により、トランプ政権下でもテスラは優遇される可能性が高まっています。マスク氏が目指すのは、テスラの運転支援システム「オートパイロット」や「フル・セルフドライビング」の安全性を巡る規制を緩和することだと言われています。
また、自動運転車やロボタクシーの規制を自社に有利な内容にすることも狙っているようです。 マスク氏は先月、完全自動運転車「サイバーキャブ」の量産化計画を発表しました。しかし、こうした車両の生産には政府機関の認可が必要です。また、自動運転車に関する規制は州ごとに異なるため、マスク氏は連邦レベルでの統一された認可制度の導入を訴えています。
一方で、スペースXは政府の資金支援を受けたロケット打ち上げ業界でトップを走っており、テスラも多額の補助金が適用される電気自動車を年間200万台近く販売しています。
このように、マスク氏の企業は政府の支援に大きく依存しているのが現状です。しかし、マスク氏の企業に対する規制強化の動きや現行規制の執行は既に弱まっているという指摘もあります。一部の連邦政府機関は、マスク氏の企業による安全基準違反が指摘されても、対処するための政治的意思を結集できないでいるようです。 例えば、NASAはスペースXのノウハウに頼らざるを得ない状況にあり、スペースXのご機嫌を損ねないよう努力しているとされています。
NASAはこれまでスペースXに150億ドル以上を投資しており、両者の関係は非常に密接です。ロイターの調査によると、スペースXの工場では多数の従業員が負傷しており、安全基準が十分に守られていない実態が明らかになっています。 しかし、NASAや労働安全衛生局は、スペースXに対して相応の処分を行っていません。
マスク氏は、政府の規制権限行使を「常軌を逸した」ものとして批判し、さらなる規制撤廃を求めています。既に民間宇宙船分野では、イノベーション促進のため、一時的に政府機関による監督が禁止されています。 次期トランプ政権では、この分野でさらなる規制緩和が進む可能性があります。マスク氏とスペースXは、同社の優越的地位こそが政府の監督なしでもうまくやれる証拠だと考えているようです。
しかし、元スペースX幹部は、ロケット製造業界での規制緩和は危険だと警告しています。事故などで計画が台無しになれば、業界全体が後退する可能性があるためです。トランプ氏の大統領就任とマスク氏の影響力拡大は、アメリカの政治と経済に大きな変化をもたらす可能性があります。
規制緩和と企業優遇が進む一方で、安全性や公平性が脅かされる懸念も指摘されています。今後の展開に注目が集まっています。
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